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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-1-18 盗聴

 魔力を察知し、また魔力通話を盗聴するのに最適の道具だった。


 シーキは、間諜用の魔法の道具……スパイ・アイテムを、山ほど持っているのである。


 (今朝がた、妙な魔力を察知したところだ……連絡用の魔法の鳥か何かが来たな? フ……間諜にしては、常套すぎて拍子抜けだ。さては、専門ではなく、普段は魔法使いや凄腕の戦士を、臨時で間諜に仕立てただけだな?)


 その通り。流石の読みであった。


 チィコーザ王国第六騎士団「穴熊隊」は、超一流のスパイぞろいである。またホーランコルが看破したように、剣などの武器の腕前も超一流だ。個々人が、表の騎士団に一歩も劣らない戦闘力を有している。


 それほどの団員が、どうして裏仕事に徹しているものか……。


 それはやはり、向いている・・・・・というか、裏仕事が好きでたまらぬ連中を選抜し、寄り抜いてそろえているのだ。


 そのようなわけで、シーキはキレットとルートヴァンの会話の全てを盗聴した。


 (殿下……殿下だと!? どこぞの王族が、自ら動いているのか!? これは……思わぬ大物が釣れたわ……!! そして、やはり! 連中は、ヴィヒヴァルンの新魔王の手下どもだったのだ!! さらに、あの南部人どもは魔法使いだ!! 完全に、その気配と魔力を消している……畏れ入ったぞ)


 さしものシーキ……いや、ズィムニン卿も、興奮と緊張で心臓が早鐘を打った。


 (クク……オレを泳がせておけ、だと!? では御言葉に甘えて、思う存分本国に報告させてもらおうか。詳細は知らんが……新魔王は、皇帝陛下に眼をつけられているのだ……!)


 そこで、シーキがはた・・と息を飲んだ。


 (ま、待て……! 待て待て待て!! 新魔王は、ヴィヒヴァルンの魔王だぞ! つ、つまり……まさか『殿下』とは、ヴィヒヴァルンのエルンスト大公ルートヴァンのことか!?!?)


 シーキが興奮を通り越し、冷や汗に濡れた。


 (そんな……そんなことが……! 王嫡孫大公が自ら動き、このような辺境まで魔王と旅をしているとは……!! フ、フフ……何を企んでいるのだ、ヴィヒヴァルン……! 何にせよ、神聖帝国の存続に関わるようでは、ヴィヒヴァルンめ……大魔神メシャルナーにして大暗黒神バーレナードビュラーヴァルの名と御力のもとに、帝国官軍に攻め滅ぼされることになるぞ……! その覚悟があっての、新魔王の奉戴なのだろうな! 老王よ!)


 ヴィヒヴァルンの老王ヴァルベゲルは、その老獪さと智謀、さらには衰えぬ野望をもって、帝国中の王家諸侯に知れ渡っている。



 翌日。


 何事も無かったかのように4人は集まり、そしてホリ=デン=ガスを出発した。


 いよいよ、見渡す限りの大平原を、蟻のようにひたすら進む旅の始まりである。


 平原と云っても、岩と砂と固い地面と枯れた灌木の、乾ききった大地だった。岩の砂漠である。しかも初冬を迎え、一面が白と灰色と茶色だった。


 まさに、異世界だ。

 広大にして荒涼とした光景に、思わずホーランコルが、

 「ウルゲリアよりすごいな……」


 と、つぶやいた。ウルゲリアは、似たような光景があっても、一面の肥沃な畑か草原である。


 「進めば、草原も現れます。そしていよいよ、ホーランコルさんの出番も。魔物や怪物もそうなんですが……なにより、至る所に盗賊団が出ます。人間のほうが恐ろしいですよ、この大地は!」


 シーキの言葉に、3人が眉をひそめた。

 「街道警備兵とかは、いないのですか?」

 キレットが、当然の質問をした。


 「広すぎるのです。王都と王家の眼が行き届かない。それに、各地の領主の兵がいちおう警備を担っていますが、大抵はその警備兵が盗賊を兼ねてますのでね」


 シーキがそう云って豪快に笑ったので、3人とも度肝を抜かれて絶句した。


 「しかもそれを、藩王が黙認している有様です! 領内を通る旅人を襲うのは、諸侯諸兵の当然の権利としてね! ここは、帝都の常識はこれっぽっち・・・・・・も通用しませんよ!」


 「……そうなんですね」

 無意識に、ホーランコルが腰の剣に手を当てた。


 「なあに、そのために私がおります。たいていは、多少の賄賂でなんとかなりますよ」


 「そうなんですか?」


 「ええ。云わば副業ですからね、連中。本格で本業の凶賊は、別にいるんです。軍閥というか、匪賊というか。藩王にすら従わない凶悪な連中が」


 「そいつらが厄介……と」


 「いいえ、そいつらはただ退治すればいい。厄介なのは、やっぱり正規兵の副業ですよ」


 「どうしてです?」


 「盗賊だからって無暗に返り討ちにし、逆に面倒になることもあるんです。なにせ、凶賊だと思ったら、表向きは正規兵なんですからね! 領主のメンツもあります」


 「面倒くさいですなあ!」

 ホーランコルが、本気でそう云った。

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