第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-1-17 ルートヴァンからの連絡
「会話式です。魔力で、殿下と会話します。ホーランコルさんは、すみませんが……」
「構わないでいただきたい。私は、通路を警戒しています」
「分かりました」
以後は、キレット、ネルベェーン、そしてルートヴァンのみの魔力による会話(念話のようなもの)である。
「殿下、キレットに御座います」
「む……魔力会話か。声を出せない理由があるのか? ネルベェーンとホーランコルもいるのだな?」
「畏れ入ります。2人ともおります」
「殿下、ネルベェーンに御座います」
「よし。事情を説明せよ。その後、こちらの状況を説明する」
「ハ。では、キレットめが報告いたします。いま、ガフ=シュ=インのア=ヴズ公領ホリ=デンの都、ホリ=デン=ガスに入ったところです。このまま、王都オーギ=ベルスを目指します。行程は、約50日です」
「遠いな……いや、近いのか。ホリ=デンからならば、王都まで数か月はかかるという話を聞いたことがあるぞ」
「いかさま。腕の良い代理人兼通訳、道案内を雇いました」
「よし、さすがだ」
「ありがとうございます。しかし、その代理人兼通訳めが……どこぞの間者のようで、今のところ私とネルベェーンは商人と信じている様子ですが、ホーランコルさんに探りを入れてきたとのこと」
「まさか、ホーランコルは何か話したのではあるまいな」
「いいえ、逆に探りを入れ、凄腕の間者と確信を」
「さすがホーランコルだ。ただの坊ちゃん勇者では、そうはゆかん。まさに百戦錬磨よ」
「いかさま。そやつ、向こうから接触してきたので、渡りに船と思い、うっかり雇ってしまいましたが、いかがいたしましょう」
「泳がせておけ。どうせ、チィコーザかそこらの特務だ。どうということはない。命を狙って来たら、かまわん、殺せ。返り討ちにしろ」
「分かりました」
「しかし、実務では、役には立つのだろう?」
「それはもう……そやつの案内なくば、とても50日では……」
「では、うまく使え」
「御意」
「こちらの状況だが……」
「はい」
「実は……聖下とはぐれた」
「なんですって……! ま、魔王様は、ゲベロ島の魔王を御倒しに!?」
「おそらく……な」
「なんと……」
「これまでで最大の戦いよ。僕ごときでは、プランタンタン達と差などなく、先に避難させていただいたのだ。しかし、そのプランタンタンとペートリューともはぐれた。そちらは聖下がなんとかするとおっしゃられ……僕とフューヴァだけ、先に脱出したのだ」
「フューヴァさんと……。で、では、いまどちらに!?」
「それが……地理がよく分からんから、よく分からん。とにかく、大陸に向けて転送魔術を飛ばしまくったのだ」
「なるほど」
「だが、どうもお前たちより早く王都に入れそうだ」
「左様ですか」
「また、不定期に連絡を行う。お前たちも、何かあればすぐさまこの小竜の魔力軌跡を伝って連絡を飛ばせ」
「御意」
魔力通話が途切れる。
またネルベェーンが木窓を開け、小竜が眼にも止まらぬ速さで外に出た。
キレットがホーランコルを見やり、うなずいた。
「廊下に、人気は無い。大丈夫です」
キレットは、ザッとルートヴァンの話を説明した。
「分かりました。あいつはうまく使って、泳がせる……と。流石、殿下です。どこの間者だろうと、魔王様の覇業にとっては些事ということですね……」
「その通りです」
キレットの言葉に、3人がうなずき合って結束を固めた。
その、シーキ(ズィムニン卿)で、ある。
気配で3人がこの部屋より最も離れたホーランコルの部屋に集まったのを察知し、荷物から「耳当て」のようなものをとりだした。
いや、じっさい、これから冬の砂漠を通るのに必須な、毛皮の耳当てである。
なんとこれが、魔法の道具であった。




