表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
465/1279

第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-1-14 ゲルク肉の塩茹で

 「お陰で、私たちは安く食べ放題ですが」

 そう云ってシーキが人懐っこく笑い、ホーランコルも、

 「確かに」

 と云って笑い返した。

 「では、ここでは名残の魚料理を? ここも肉だけですか?」


 「ここは、チィコーザの料理人がいます。新鮮な魚介を扱っておりますよ。ですが、練習のためにガフ=シュ=インの料理も!」


 「分かりました、お願いします」

 シーキがチィコーザ語でなにやら注文し、先に酒が来た。

 ガントックの上質なワインだった。

 陶器のゴブレットで乾杯し、傾けつつ、


 「そう云えば、ガフ=シュ=イン人は、酒は飲むんですか?」

 「飲みますよ。しかし、毛長牛ゲルクの乳から造った乳酒です」

 「そんなものが、あるんですか」


 「これがまた、クセの強い蒸留酒でね、私は苦手です。しかも、水が貴重なので、そのままるんですよ」


 「本当ですか」

 「ま、こんな小さなカップで、チビチビですけど、ね」

 「へええ……」


 「もし良かったら、それも、予行練習で」

 「あるんですか」

 「もちろん」

 「いいですね」


 それから、干した魚を上質の野菜スープで煮戻したもの、大きな甲殻類や貝を含む魚介の蒸し物が来て、そしてガフ=シュ=インの肉料理も来た。


 それが、骨付き肉を塊で塩茹でにした「だけ」のものが豪快に大皿に山盛りにされた「だけ」で、ホーランコルが眼を白黒させる。


 それを見やってシーキが笑い、

 「こんなの・・・・を、大勢がナイフと素手で貪り食うんですよ!」

 「三食、これ・・ですか?」


 「そうなんですよ。これが毎食、1週間も続きましたらね、見ただけで具合が悪くなり、喉を通らなくなりますよ。私も最初のころは、吐きながら食ってました」


 「臭いもすげえな」


 ホーランコルが、嗅ぎなれない独特の肉の臭いに顔をしかめた。乳臭さと草臭さ、血腥ちなまぐささが交じったような臭いだ。


 「味は、どうなんです?」

 「試してみてくださいよ」


 シーキがニヤニヤしながらそう云い、それを察して、苦笑しながらホーランコルがナイフで肉を切り、手でつまんで口にした。


 ゴリッ、という筋張った歯ごたえがし、若干の塩味と、独特の臭いだけが口中と鼻腔に広がった。


 ホーランコルは眉をひそめ、

 「……味が……あんまり、しませんが……」


 「それでも、マシなほうですよ。ここの水で茹でてますからね。もっとも、茹でた水はぜんぶ捨てますが! 内陸に行くと、水が悪いので、苦味すらしますよ」


 「…………」


 さすがのホーランコルも絶句し、ややしばし、口に肉を含んだままシーキを凝視した。


 そのホーランコルの表情が可笑しくて、シーキが吹き出して笑った。

 それにつられて、ホーランコルも笑いだした。

 「いやはや、大変な旅になりそうです」


 再び乾杯し、ホーランコルがそう云った。

 「そのための私です。最大限の御助力を御約束します」

 「御願いします!」

 「大金をもらってますから! 御任せを!」


 そこでまた乾杯し、ゴブレットのワインを飲み干してから、唐突にホーランコルが仕掛けた。


 「街道沿いでは、魔物やら盗賊やらもすごい・・・と聞きました。私は、剣には自信があります。あの2人の護衛を引き受ける以前には、ウルゲリアで魔物退治を専門に行っていたことも!」


 「それは、頼もしい!」

 「シーキさんも、相当に剣を御使いに?」

 「……」


 さしものシーキが、ほんの一瞬、言葉に詰まった。まさか、ホーランコルから探りを入れてくるとは思っていなかった。


 「いえいえ、とんでもありません。どうして、そう御思いに?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ