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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-1-6 ガントック・ナツク間国境

 「飛び地って、どういうことでしょうか?」


 ホーランコルも、ナツクという土地は聞いたことも無かった。もちろん、キレットとネルベェーンもだ。


 「わかりません。行ってみないことには……」

 「魔物退治ではなく、探索の旅というのは、なかなか難しいですね」


 ホーランコルが、そう云って苦笑する。それは、キレット達も同じだった。魔物退治のほか、暗殺、恐喝、エセ勇者の自作自演マッチポンプの片棒担ぎなどの魔獣使いとしての仕事とは、根本から異なる。


 「しかし、これもイジゲン魔王様の御為。慣れない仕事ですが、頑張りましょう!」


 「はい」

 3人が、しっかりとうなずきあった。

 翌日、情報料とは別に宿泊代をきっちりと払い、3人はブリディを出た。


 「さすがに、帝都リューゼンの商人は気前もいいし、物腰も違ったなあ」

 などと、ホテルでは支配人が3人を褒めそやし、従業員たちもうなずいた。


 3人は馬車を雇い入れようと思ったが、なんとナツクのクラッカルとこのランディ間には往復の乗合馬車があった。


 それほど、商人や物資の行き来があるのだ。


 じっさい、晩秋の寒さの中、20人乗りの馬車は満席だった。しかも1日に3往復しているそうだが、朝の便には乗れず、昼の便にした。その昼便でも、最後の3席だった。


 「帝都の人ですか? さすが、こんなところまで買い付けにくるなんて……」

 乗合の商人が、そう話しかけてきた。

 「はい。ですが、ナツクからガフ=シュ=インに行きたくて」


 「ガフ=シュ=イン……!」

 ガントックの商人たちが、ザワザワと息をのむ。

 「いや……さすがです、自らあの蛮地・・へ買いつけに参るとは……」


 「私どもなど、恐ろしくて恐ろしくて、とてもあそこまで入る勇気はございません」


 「それも、護衛の剣士様を雇ってまでとは……いやはや」

 キレットとネルベェーンが顔を合わせる。

 (そんなに……!?)


 しかし、ガントックの人間はそもそもガフ=シュ=イン藩王国に偏見を持っており、話半分以上だと判断した方が良いだろう。


 ランディからナツクのクラッカルまで、よく整備された街道を通り平原と灌木地帯を越え、乗合馬車で2日だった。歩くと6日ほどだそうなので、半分以下の行程だが、この乗合馬車があまり乗り心地が良くなく、乗っているだけで尻や腰、背中が痛くなり、1日乗っていただけで相当に疲れてしまった。3人とも街道筋の宿ではマッサージ師を雇い、入念に全身を手入れしてもらった。


 翌日、ガントック・ナツク間国境の関所では、乗合の商人たちはみなガントックの王宮が発光している身分証明書をチィコーザの衛兵に見せた。ガントックとチィコーザは最友好国なので、ほぼフリーバスである。


 で、最後に3人が検査室に通されたのだが。

 「て……帝都から!?」

 衛兵が、3人の出した皇帝府発行の身分証明書を食い入るように見つめた。


 チィコーザの衛兵も、何人かは帝都語が話せた。

 「ホンモノか?」

 「もちろんです」


 マジメな顔で、キレットが答えた。

 「わざわざ、ここまで……」

 物珍しいというより、完全にドン引きして、衛兵たちが3人を見つめる。


 「で……何を買い付けるつもりなんだ?」

 「はい、金を」

 「金ねえ……」


 急に、衛兵たちの眼が、うさん臭げなものをみるそれ・・に変わった。

 「……」

 キレットが、何かマズイことを云ったか……と、内心、冷や汗をかく。


 案の定、

 「おまえたち、本当に商人か?」

 「もちろんです。何か、ご不審な点でも?」

 「なぜ、わざわざナツクまで来た? 金なら、他でも買い付けできるだろう」


 「はい、その通りです。しかし、先にウルゲリアに入って、買い付けを行っておりました。そのままウルゲリアを横断し、海辺まで抜け、沿岸街道を北に上がってきました」


 「ウルゲリアだと!?」

 「はい」

 「ふうむ……」


 衛兵たち、そのまましばし黙って3人を凝視し始めた。

 さすがに、キレットも、


 (なんだ……? 皇帝は、チィコーザ出身者のはずだ……。なぜ、帝都の証明書をそこまで疑うのだ……?)

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