第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-1-1 異次元魔王ストラのために戦う聖戦士
第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」
第1部「彼方の閃光」
1
大魔獣ランヴァールから飛び立った4頭の魔物に乗ったキレット達は、数時間をかけて海を越え、夕闇も迫ろうというころに、騒動にならぬよう人知れぬ草原に降り立った。
「ここは……?」
船長が目を細め、いぶかし気に周囲を見やった。が、薄暮に見慣れぬ景色が広がり、よく分からなかった。
「ここは、フィロガリの裏手の荒野だ。何回か通ったことがある」
ホーランコルの言葉に、バーレンリとクロアルがうなずく。ホーランコルを棄教者とみなしたドゥレンコルは、そっぽを向いて顔を合わせようとしなかった。
「では、まずフィロガリに入りましょう。そこで解散ということで。それとも、ここで解散しますか?」
船長と船員たちが目を合わせ、
「いや、どうせフィロガリへ行く。みんなで行こう……」
船長の言葉に、みながうなずいた。
「そ、それより、こいつらはどうするんです!?」
アーベンゲルが、おとなしく薄暮に佇んでいる魔獣どもを指さし、そう云った。
「殿下が、ランヴァールへ戻せとおしゃっておりましたので、その通りにします」
云うが、キレットが軽く杖を振る。
4頭の魔獣が、追っ払われたカラスのように、急いでその場より飛び去って、一直線に海に向かって飛んで行った。
ちなみにこの4頭は、ルートヴァンも知らぬ間に無事にランヴァールまで帰りつき、大魔獣の寄生生活に戻った。
一行はそれから晩秋の冷たい海風が吹きすさぶ中を黙々と歩き、完全に暗くなってからはキレットとネルベエーンの出した魔法の照明球を頼りにして、夜半にフィロガリに到着した。
ノラールセンテ地方伯家直轄の港湾都市フィロガリは、かつては城塞都市だったが少しずつ城壁を取り払い、拡張してきた。街にも、24時間自由に出入りできる。
まだ宿や飲み屋が開いている時間で、街の明かりの中、大通りの端で一行は立ち止まった。
「では、ここで解散します。私とネルベェーン、ホーランコルさんは、準備が出来次第、北に向けて出発します。では、みなさん、お元気で」
キレットがあっさりとそう云い放ち、解散を宣言した。
「……わかった。じゃあな、魔王さんの武運を祈るよ」
船長がそう云い、生き残った船員を連れて港のほうに去った。
ずっと無言だったドゥレンコルは、やはり無言のまま、最後までホーランコルと目を合わさずに、スタスタと通りを行ってしまった。
ホーランコルが目を細め、その背中を複雑な表情で見送った。
「隊長……ホーランコル、御世話になりました。どうか、これからの冒険の旅路に、御武運を御祈り申し上げます」
バーレンリがそう云い、ホーランコルと固く握手し、次いでハグをした。
「ホーランコル隊長、私も同じ思いです。どうか、新しい世界で……御活躍を」
クロアルもそう云って、同じく握手とハグをする。
「2人とも、有難う。御聖女を捨てた、俺に対し……」
ホーランコル、思わず涙ぐむ。
「いいえ……我らは、とっくに、御聖女様を利用するだけの大神殿に、見切りをつけておりました。腐りきった神殿のせいで、御聖女様を見限った人々を、これまでにも……」
バーレンリのその言葉に、ホーランコルも神妙な顔となる。クロアルも、
「しかし、ルートヴァン殿下が、おっしゃっていましたでしょう。このノラールセンテで、地方伯閣下が、新しい信仰を模索していると……!」
「ああ」
ホーランコルがうなずく。
「私たちは精一杯、その新しい御聖女信仰を御手伝いしたいと思っております。なあ、バーレンリ」
「そうです。その通りです」
2人がうなずき合い、それを見つめるホーランコルも涙を流した。
「では、私たちはこれで。皆様、さようなら」
バーレンリとクロアルも、通りを行ってしまった。
ホーランコルは、その2人もずっと暗闇に見えなくなるまで見送っていたが、
「もういいですか、ホーランコルさん」
キレットにそう云われ、我に返る。そうだ。もう、切り替えなくては。これからは、異次元魔王ストラのために戦う聖戦士となる。
「けっこうです。御時間を頂き、感謝いたします」
「まずは宿を取り、今夜は休んで……明日、出発の準備をして、明後日の朝一番でここを出ましょう。よろしいですか」
「けっこうです」




