第9章「ことう」 6-4 ここ
「えっ、な、なに……!」
「なに、じゃあ、ありやあせんよ、こいつ、どこのなんだか知りやあせんが……助けてもらいやしょう!!」
「ええっ……!? だって、トロールだよ!?」
「こんなトロール、見たことも聴いたこともありやあせんよ。きっと、あしらの知ってるトロールとは違う連中ですよ。とにかく、ここにいつまでもいるわけにゃあ、いかねえんで……早く、頼んでくだせえ。言葉が通じるんでやんしょう!?」
「う、うん……この、ゲベル島でもらった道具が……通訳してくれてるみたい……」
「なんでもいいでやんす! ほれ、ほれっ!」
プランタンタンにせかされ、ペートリュー、
「あっ、ああああ、あの、あ、あのー、あのーーーーー」
「ところで、あんたら、どこの人とエルフなんだあ? 見たことないよ。あたしらの言葉が分かるってことは、はんおうこくの人なのかあ? 魔法で話してるのかあ?」
ピオラの方から、そう訪ねてきた。
「ええ! まあその、えええーーーーーとですね、わっわ、私はペートリューで、このエルフはプランタンタンさんです。えーーーと、えーと、えーと、リリリ、リーストーンから、フランベルツに出て、そこからフィーデ山の地下を通って、ヴィヒヴァルンに出て、そこからウルゲリアに行って、そして海を渡ってゲベロ島に行って、そこから……えーーーーと、まあ、魔法でここに飛ばされて……」
「ぜえんぶ、しらねえ場所だあ!!」
ピオラがそう云って笑い、血だらけの手で顎の辺りをぬぐったので、真っ白な顔に真っ赤な血の跡がついた。
その血化粧のような美しい顔を、ぼんやりと見つめてペートリュー、
「あ、あの、こ、ここは、どこなんですか?」
「ここは、はんおうこくのダジオンさあ。ここらの連なった山々を、あたしらの言葉でダジオンっていうのを、はんおうこくの連中もそう呼んでるのさあ」
「ダジオン……ダジオン山脈……ってことかな。で、その、あ、あの、あの、お願いがあるんですけど……」
「魔法で飛ばされたってことは、だれかと戦っていたのかあ?」
「え、ええ……その、魔王……ロンボーンと……」
「魔王おおおお!?」
ピオラが眼を丸くして、大きな牙の見える愛らしい口を尖らせた。
「え、えーーと、その……ええ、まあ」
「魔王と戦ったのかあ!? あんたら!!」
「いや、あたし達じゃあ、ないですけどね。戦ったのは」
「それで、負けて、逃げてきたのかあ!?」
「いやっ……勝ったみたい……なんですけどね……」
「勝っただってえええ!?」
「えっ、いやッ、まあっ、そのっ……」
「すっげええなあ! 魔王に勝つなんてさあ! その、ナントカ島に魔王がいたのかあ!?」
「ええ……ゲベロ島です」
「そっから……魔王に勝って……」
「えーーーーーと……」
ペートリューは即座に適当な云い訳を考え、
「えーーーーー最後にーーーーーそのーーーままままっま、まーーあおーーうの罠にハマってええええーーーとえーーとえーとえーーーとーーーーー脱出というかーーーそのーーーーー脱出する時間もなくてえええーーーーーーーなんとかここまでえええーーーそのおおーーーー飛んできたと云うかあああーーーーーーーーーーーー」
「はああー……すっげえなあ……」
ピオラの眼が、冷気を映して深く青に澄みきって、キラキラと輝いた。
「なあ、あたしのムラに来いよ。しばらく休んで、体力を回復させてさ。魔王との戦いを、話してくれないかなあ!」
「えーーーーまあああーーーそのーーーー話せる範囲で、なら……」
なんと云っても、レミンハウエルもゴルダーイもロンボーンも、ストラが戦っているのを直接見ているわけではない。話せる範囲も何も、魔王のことなど何も話せる事柄は無い。




