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第9章「ことう」 6-3 トライレン・トロールのピオラ

 が、ペートリューの頭には、まだ宇宙船ヤマハルの備品だった翻訳機がついたままだった。


 それが、なんとこの未知亜人類の未知言語に対応した。


 従って、少しタイムラグはあるが、ペートリューは言葉が分かった。さらに、ペートリューの声もほぼ同時通訳で、翻訳機のマイクから出る。


 「えっ……あのっ……たっ……助かった……の……?」

 「そうだねえ、まあ、あたしゃあ、晩メシを獲ったついでなんだけどねえ!」


 そう云いながらニカッと笑って、ノシノシと2人……いや、ゲドルに近づいた人物に、2人は再度固まった。


 でかい。


 巨人……というほどではないかもしれないが、背が2メートル半ほどもある。


 そして、雪のように真っ白だ。雪景色に紛れる、真っ白な服を着ているのかと思ったが、毛皮のビキニめいた衣類のみで、素肌である。


 つまり、女性だった。

 しかも、この雪が降りしきる中で、夏の海辺のような半裸なのである。


 オールバックのようにひっつめて後ろで結んでいる長い髪は真っ黒だが、ストラのように微細な光を放って、黒鉄色だった。


 その頭に、短角が5本ある。

 眼は黒ずんだ薄青色で、まさに北国の湖沼のようだった。

 顔立ちはすっきりと整っており、まさに眉目秀麗だ。


 が、よく見たら、目鼻口の配置がやはり人間やエルフとは微妙に違うし、爪も魔族に近く、指先から直接三角錐で鋭く突き出て、口には大きな牙もあった。耳は、エルフほどではないが、軽くとがっている。というより、大きい。


 「エ……エルフ……!? まさか……魔族なのッ……!?!?」

 ゲドルを覗きこんで見聞する謎の女に、震えながらペートリューが尋ねる。


 「まさかあ! あたしゃあ、トライレン・トロールのピオラrッリrレテrットゥレrレnさ!」


 女が笑顔でペートリューに振り向いたが、その名前の部分がすごい早口の巻き舌で、翻訳機を通しても聞き取れなかった。


 「え、えっ、えっ、ピッ、ピオ!?」

 「ピオラでいいよ」

 「ピ、ピオラ? ピオラ? トラ? トラレ、トロール? トロールなの!?」


 「トロールだよ」

 「私の知ってるトロールと……全然違いますう」

 「トロールにも、いろいろいるんだよお!」


 「にっ……人間を、襲って食べるって……!!」

 「あたしらは、食わねえよお!」


 云いながら、ピオラは飛んで行った投擲武器を探して、森の奥に入って行った。

 そしてすぐに、四方向に鋭い刃の突き出た、巨大な投げ斧を手に戻ってきた。


 その斧も、とてもではないが、手斧という大きさではない。人間が2人がかりで持つような大きさだ。


 それを、片手で軽々と持っている。

 かと云って、ボディビルダーのように筋骨隆々というわけではない。


 逆にセクシーモデルほど華奢でもないが、スラリと伸びた手足にほどよく鋼鉄のように強靱な筋骨が躍動し、広い肩幅に巨大なバストが揺れている。毛皮のブラが、いつ弾けてもおかしくなさそうに。


 (えっ、なんでこいつ、こんなにおっぱいでかいの!?)

 今更ながらペートリューが、ついその巨大な(バスト)に眼をやった。

 人間サイズに変換しても、Hカップ……いや、それ以上はあるだろうか。


 (カスタみたい……)

 そんなことより、この雪の降る気候で半裸とは、寒くないのだろうか。


 ペートリューがぼんやりと見つめていると、ピオラが鼻唄を歌いながら、横倒しになっている甲羅を持ったゲドルを楽々と引きずり、少し離れた場所で、その巨大な手裏剣みたいな形状の斧をナイフのように振りかざし、悠々と解体しはじめた。


 (うへえ……)


 家畜や獲物の解体を初めて見るペートリューは、あまりに迫力と生々しさに度肝を抜かれ、座りこんだまま微動だにできなかったが、そのペートリューを揺さぶってプランタンタン、耳に口を近づけ、


 「ペートリューさん、ペートリューさん!!」

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