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第9章「ことう」 6-2 最期はこっち

 針葉樹林だ。

 この世界の、いったいどこなのかもまったく分からない。

 人がいるようにも見えない。


 何か、危険な魔物や動物がいつ現れてもおかしくない。

 ストラを運びながら、人家を探すか?


 無理だ。2人には、運ぶ体力も力も手法も無い。

 ストラを置いて、探索に出る?


 この場所に、正確に戻って来られる自信は、微塵も無い。見た限り、こんな深山に人が住んでいるとも思えない。


 「どうしようもねえでやんす」


 「だああああああーーーーーーーーよおおおおーーーーーーねええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 ペートリューがふり絞る様にそう叫び、ばったりとストラに覆いかぶさった。


 「ペートリューさん……」

 「私、もうここで終わりでいいです」

 「そ、そんなあ……!」

 ペートリューの背中をさすりながら、プランタンタン、


 「ペートリューさん、あきらめたら、ダメでやんす……! リーストーンのタッソからここまで、いっしょにやってきたじゃあ、ありやあせんか……。あきらめねえで、どうか……!」


 「諦めないでって……無理ですよ、そんなの。……とっくに、この世界で生きるのを諦めてたんです……。それが、ストラさんに出会って……少しだけ、いい夢を見ただけなんですよ……。その夢も、ここで醒めるんですよ。……現実に戻って……野垂れ死にです。……何も、変わりませんよ……。死ぬのが少し、伸びただけ……」


 ペートリューはもう抜け殻のようになって、冷たいストラの胸に顔を当てていた。


 「そっ、そうだ、ペートリューさん! あっしがひとつ、ひとっ走りして、誰か、人かエルフか、分かりやせんが……探して来やんす! 待ってておくんなせえ!」


 「うん……」


 ペートリューは、プランタンタンが二度と戻ってこないと思ったが、口には出さなかった。


 「じゃあ、ペートリューさん、行ってくるでやんす! あきらめねえで、ぜってえに、あきらめちゃあ、ダメでやんすよ!」


 涙目でそう云い、プランタンタンが駆けだそうとして……悲鳴を上げて、ひっくり返った。


 「ペッ……ペートリューさん!!」

 ペートリューに取りすがり、その細い手を震わせる。


 ただ事ではない雰囲気に、ペートリューも思わず顔を上げ、その理由を知った。


 ゲドルだ。

 それも、観たことも聴いたことも無い種類の。


 巨大なアルマジロのような甲羅というか、突起のある装甲版を背負った、半二足歩行のゲドルだった。体高2メートル、体長は尾の先まで5~6メートルといったところか。


 ゲドルには草食のものもいるが、いま現れたのは、明らかにこの寒さの中でちょうどいい夕食を見つけたといった様子だった。平たい三角の口元からは、大量のヨダレと、肉を切り裂くナイフのような鋭く細かい歯がびっしりと見える。


 「こっちかああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーさいご・・・はこっちかああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 起き上がったペートリューが、もう泣き笑いで叫んだ。

 それを合図に、甲羅のゲドルが2人に向かって突進した。

 3、いや、4歩で、ゲドルはまずペートリューの脳天に咬みついた。


 かに思ったその瞬間、真横から回転しながら飛んできた「何か」が、ゲドルの首に突き刺さった。


 どころか、そのまま首を両断して飛んで行き、立ち木を数本ぶった伐って、どこかへ飛んで行った。


 血しぶきをぶちまけながら、ゲドルが横倒しになる。

 大量の血が、薄雪を真っ赤に染めた。

 「……ァヒァ……!!!!」


 何が起きたか理解できず、痙攣するように口をパクパクさせながら、2人が固まりついた。


 「よおお! あんたら、大丈夫かあい!?」


 鐘のように大きく澄んだ声で現れたのは、エルフでも人間でもない、2人が見たことも無い亜人種だった。


 が、言葉が分からない。異様なほどの巻き舌と、喉の奥から出すかすれたような声を多用する未知の言語だ。


 2人はタケマ=ミヅカの言語魔法がかかっているが、それでも、何を云っているのかよく分からなかった。

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