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第9章「ことう」 5-13 脱出

 「スゥッ……」

 ペートリューはそこで息がつまり、胸の上をドンドンと叩いて、

 「ストッ、スト、ススッス、スススストラさん!!!!」


 「えっ?」

 プランタンタンも、すぐに上を見た。


 淡い光の中を、エレベーターめいてゆっくりと降りてくる誰かの足の裏。

 誰かも何も、ストラ以外にいないのは、プランタンタンも瞬時に理解する。


 「旦那ああああああああーーーーーッッ!!!! 旦那でやんす!! 旦那でやんす!! 旦那でやんす!! だああああんなでやんすうううううううううううーーーーーーーーッッッ!!!!!! ストラの旦那でえええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!」


 プランタンタンがそう泣きわめいて、狭い空間バリア内で跳びはねたものだから、バリアごとバランスを崩し、さらに次元断層……次元クレバスの深みに落ちかけた。


 そこでストラが降下の速度をあげ、一気に突っこんだ。

 その分、次元乱反射の中和に負荷がかかる。

 「わあああッ、わああ!! 落ち、落ちるでやんすうううううう!!!!」


 プランタンタンが慌てて次元の壁をよじ登ろうとして、余計にバランスが崩れた。

 「プランタンタンさん、落ち着いて!」


 プランタンタンに掴みかかったペートリューが、またも無意識に魔力を発動させ、一瞬だけ、空間バリアの落下を防いだ。


 その一瞬……0.6秒ほどで、ストラが2人と接触した。

 「旦那、旦那ああああああ!!」

 「ストラさ……!!」

 「掴まって」

 必死にしがみつく2人を抱え、ストラが次元クレバスより脱出する。


 脱出と同時に連続位相空間転送を行い、フューヴァの次元マーカーを追ってガフ=シュ=イン藩王国へ向かう。


 はずだった、が……。


 クレバスより出る直前に、乱気流めいた空間の乱れと超高濃度魔力の奔流が重なって、ハンマーのようにストラを打ち据えた。


 常ならば回避あるいは空間バリアを展開、あるいは最低限の中和を試みるところだが、2人を抱えていたこと、2人への接触速度を上げるために空間乱反射効果中和プログラムを限界を超えて回していたこと、そのために他のプログラムを圧縮・休止していたこと、その状態の中で自動的に連続転送をするためのプログラムを立ち上げていたことにより、反応が遅れ、まともに食らった。


 空間バリアが破壊され、2人が投げ出される。


 ストラは、これ以上の反応速度低下防止のため、自律作戦行動用自己意識プログラムをあえて停止。


 無意識下のまま自動オートで2人を救出すると、事前に稼働させていた転送プログラムにより、空間転送した。



 6


 「……さん、ストラさん……起きてください……ストラさん……」


 プランタンタンが目覚めたのは、ペートリューのその泣き声もあったが、寒さに震え上がったからだ。


 「どッ……!」

 ガバリと起き上がって、全身を包むその冷気と手の冷たい感触に驚く。

 雪だ。


 雪が降っている。

 「どこでやんす!? ここは!? ま、まさか、ゲーデル山でやんすか……!?」

 白い息を吐いて、周囲を見渡した。


 バーレン=リューズ神聖帝国でも中南部にあたるフランベルツは比較的温暖だが、標高の高いゲーデル山やその中腹にあったリーストーンは、冬は積雪で真っ白になる。季節がら、冠雪には少し早いが、プランタンタンはストラがゲーデル山に自分たちを転送したと思ったのだ。


 「ペ、ペートリューさん! ここは、いってえ……?」

 「プランタンタンさん……ストラさんが……ストラさんが……」


 プランタンタンはそこで、ペートリューが懸命に揺さぶっているストラを見やった。薄雪の上に横たわり、薄目を開け、微動だにしていない。


 「旦那……?」


 「ストラさん……息してないし……脈もありません……とっても冷たくなってます……でも……ストラさんが……ストラさんが……」


 死ぬわけない、と云おうとして、ペートリュー、どうしてもその言葉が出てこず、あふれ出る涙に顔を歪めた。

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