第9章「ことう」 5-12 あきらめちゃあダメ
そういった大規模な影響が偶然、避けられたとしても、重力や時空に少なからず影響を与え続けるのは、云うまでも無い。
さらに、断層の内部は、ありとあらゆる方向と濃度で魔力子が飛び交い、次元乱反射を起こして、次元振動の大嵐というレベルではない。もし魔力子を視覚化したら、ほぼ視界ゼロと云うほどに荒れ狂う、メチャクチャの超絶乱数状態であった。
これほどの次元乱反射を全てかつ同時に中和しつつ、大規模次元工事を行うのは、エネルギー総量的にも、プログラム的にも、ストラには不可能だった。
タケマ=ミヅカも、この状態で何も干渉してこないのを鑑みると、ウルゲリアで次元干渉した際に消費したエネルギーを、いまだ回復していないか、タケマ=ミヅカをもってしても、この規模の次元修復は無理ということだ。
そして、プランタンタンとペートリューは、大規模爆発の衝撃により空間バリアごと断層に落ちて、次元断層崖の片隅に引っかかっているた。
「おおおおおおおーーーー~~~~~~~いいいい!! だあれかああああ~~~~~ーーーーーー!!!! たああすけてくれでやんすううううううううーーーーー!!!!! 」
プランタンタンが空間バリアの中で宙に浮くような状態でひたすら叫ぶが、そもそも音が次元断層の外に届かない。
「ペートリューさんも、ほれえ!! いっしょに助けを呼ぶんでやんすよおお!!!!」
ペートリューはしかし、プランタンタンの足元で座りこみ、ぐったりとうなだれていた。酒が無くなったのもあるが、
「ムリですよ……プランタンタンさん……。ここ、きっと魔法の空間の裂け目ですよ……しかも、こんなに大きくて……魔力の流れがメチャクチャっていう規模じゃないくらい、メチャクチャのグチャグチャのドチャグチャ大混乱の大奔流です……。ルーテルさんはおろか、ストラさんでも、助けに来れるかどうか……」
「そんなハナシは聞きたくねえええええでやんすうううううううううううう!!!!!!!!!!」
涙目を通り越して、狂気的に薄緑の眼をむいて、プランタンタンがペートリューに掴みかかって揺さぶった。
「絶対、絶対、絶対絶対絶対に死なねえでやんす!! 死んでたまるかでやんす!! ペートリューさんだって、ストラの旦那を世界の神様にするんでやんしょうッッ!?」
「まあああーーーーーーーねええええーーーーーーーーーーーたしかにーーーーーーそおおーーーーーーー云ったけどさあああああああーーーーーーーーー」
いきなりペートリューが、次元断層の天を仰いで半笑いの半泣きでそう云った。
「けっきょくーーーーーーーーーーあたしなんかはーーーーーーーーーーーーーこんなところでおしまいってのがーーーーーーーーーーーーおにあいってゆーーーーーーーかさあああーーーーーーーーーー」
「ペートリューさんッ!!!! あきらめちゃああ!!!! ダメでやんすうッッ!!!!」
そういうプランタンタンも、涙があふれて、止まらなくなった。
「あきらめちゃあッ……ダメで……やんす……!!」
云いながら、嗚咽をこらえる。
ペートリューは、酒臭い嘆息を何度も吐きながら、次元の裂け目の上を見つめた。涙で、にじんだ。次元発光現象により、激しく虹色に輝く巨大なクレバスのその上に、元の次元の星空が微かに見えた。
その空の上から、一条の光がまっすぐ下りた。
光は、ストラが発していた。
極狭範囲で、なるべく計算が少なくてすむようにし、次元乱反射をことごとく中和する。
まさに、地獄の犍陀多めがけて極楽より下りる蜘蛛の糸だった。
実際は、糸ではなく、直系80センチほどのマンホールのような光の筒であるが。
その筒の範囲内で、ストラはまっすぐ2人めがけて降下した。
クレバス内に突入すると、ストラのプログラムに巨大な負荷がかかった。
待機潜伏モードでは、とても処理しきれない。
(準戦闘モード……使用……限定的許可。許可時間、68秒……)
1分ちょっとで、2人を拾ってクレバスから脱出しなくてはならない。
その光が、次元の揺らぎに押されて時おり歪みながらも、まっすぐにプランタンタンとペートリューの元に届いた。
しかし、嗚咽をこらえるプランタンタンは光に気づかず、上を見上げていたペートリューだけが、その光の柱の到達と、光の中を何かが真っ直ぐ近づいてくるのを認識した。
いったい、こんな状況で、何が2人の元に一直線にやってくるのだろうか?




