第9章「ことう」 5-11 ロンボーンの死~次元断層
ロンボーンもここで力技。これまでで最大の超凝縮スピースの塊を発生させて楯とし、ストラがその分厚い楯を切り裂いて吸収する前に、楯としたスピースの全てをエネルギーに変換した。
つまり、ロンボーンもギガトン級の核融合に匹敵する爆発をくらわせたのだ。
が、その瞬間。
次元転換法の応用で、ストラがその全てのエネルギーを瞬時に吸収した。
「な、んだ……と!」
ストラの剣が、ロンボーンを袈裟がけに両断した。
臙脂色のシンバルベリルが両断された瞬間、ロンボーンの全機能が停止した。
思考も、記憶も、精神も、全て消失した。
死んだのである。
切断された中央の主シンバルベリルより放出された大量の魔力により、躯体表面に埋められていた2つの赤色シンバルベリルも誘爆する。
その、爆散する黒色1つ分に匹敵する全魔力は、ストラの余剰エネルギー回収フィールドが次元転換法により、瞬時に回収した。
光子剣に両断されてから0.8秒後、ロンボーンは瞬爆により崩壊しかけた未知金属による躯体と、無色透明のシンバルベリルと化し、そのまま荒れ狂う絶海に真っ逆さまに落ちた。
ストラが、無機質な眼と表情で、それを見下ろした。海底数千メートルにて、文字通り自身の全てを懸けて再起動した宇宙船ヤマハルの残骸と共に、プレートごと移動し、地層に閉じこめられようとも、この惑星が崩壊するまで眠り続けるだろう。
そして、ストラはゲベロ島に向かって飛んだ。
ルートヴァンに空間通信をした後に、空間バリアで仮保護していたプランタンタンとペートリューを救出するためである。
プランタンタン、ペートリュー、フューヴァの3人は、当該世界での待機潜伏モードにおいて行動するために必要な次元マーカーとして、常に三次元座標を把握している。
理論上は、当該次元にいる以上、たとえ宇宙の果てでもその位置を確認できる。
が、現実は、エネルギー総量や各種の環境状況により、ストラでは数十キロから数百キロの範囲でしか確認できない。
ゲベロ島上空に向かうと、ロンボーンとの戦闘で生じた大規模な熱爆発の直撃で島は焼きつくされ、ゲッツェル山も変形していた。
プランタンタンとペートリューが生身でいたら、どこに隠れていようと死亡……いや、消失は免れない。
そのための、空間バリアによる保護である。
レミンハウエル戦の時のように、フィーデ山の地下からヴィヒヴァルン南部の平原へ位相空間転送しなかったのは、転送可能範囲内に海しかなかったからだ。
転移先の座標を固定する為には、ストラも一緒に動かなくてはならない。
そのための、仮保護であった。
しかし……。
(おかしい。反応が無い)
仮保護したはずの座標に、2人がいない。移動したにしても、島内であればすぐに探査できるはずなのだが。
(海に落ちた……? いや、周辺海中にも反応無し)
答えは、すぐに分かった。
(ここか)
ゲベル人の集落のあった西島の、ゲッツェル山を挟んで反対側……東島は、もとよりロンボーンが「禁忌の地」として数千年間厳重にゲベル人やゲベラーエルフの立ち入りを禁じていたが、理由は、ヤマハルが東島側山麓に次元沈下したからである。万が一……いや、億が一にでも、侵入者がヤマハルに影響を与えないように。
そのヤマハルが次元浮上した跡が、未だ、巨大な次元の裂け目、次元断層として、山麓に残っていた。
(観測波が、返ってこない……目測、長さ約2キロ、幅約200メートル。未知探査領域、かつゲベル人宇宙船の大きさと一致。当該宇宙船が次元浮上した跡が、塞がっていない状態と認識)
塞がっていないのは、ロンボーンがヤマハルのシステムを使って塞ぐ前にヤマハルが失われ、かつロンボーン自身が死んだからであろう。
この規模の次元断層を修復するプログラムは、ストラには組まれていない。
また、エネルギー総量も絶対的に不足している。
すなわち、ストラは、この断層を放置するしかない。
放置した結果、次元断層がこの世界にどういう影響を与えるのか。
あくまで推測だが……ウルゲリアを真紅に染めた超高濃度魔力と比較にならないほどの大量の超超高濃度魔力がある日突然、噴き出るかもしれない。
また、何らかの原因で次元断層が広がり、海に達した場合は、無限に海水が次元の彼方に呑みこまれ、この世界の海は消失……干上がってしまうだろう。それが気候的にどのような影響を及ぼすか、考えるまでも無い。世界が一面の砂漠となるのに、百年かかるかどうか。




