第9章「ことう」 5-10 光子破断効果
ゲベロ島は、ゲベル人の集落も、マッピやスードイの畑も、天然の木々も、何もかも焼きつくされ、衝撃波で吹き飛んだ。まるで、海底火山の噴火で誕生したばかりのような真っ黒い岩石だけの姿と化した。ゲッツェル山自体も、山頂から4分の1ほどが吹き飛んで消えた。
また、海が荒れ狂い、島の半分も巨大な津波が洗う。
ストラは浮遊したまま、慎重に周囲を探った。
ヤマハルと4つの小黒シンバルベリルのエネルギーを奪い、準戦闘モード可能時間は格段に伸びている。
が、景気よくギガトン級の攻撃を続けていては、いずれはエネルギー不足に逆戻りなのは変わりない。
(いまの攻撃で、もしロンボーンが無傷だったら……)
「無傷に決まってるだろうが」
位相空間転移により次元深度の浅い異次元へ避難していたロンボーンが、ストラのすぐ後ろより当該次元へ現れ、再びクモが獲物を捕らえるように超魔力凝縮脚手をストラに突き立てる。
同時に、ストラも逆手に持った光子剣をロンボーンの本体のシンバルベリルに突き立てていた。
両開きに開いてた銅鐸が瞬時に閉じ、空間バリアが展開してギリギリその切っ先を防ぐ。
わずかながらロンボーンが後ろに下がり、その凝縮魔力の脚手も下がってストラを捕らえ損ねた。
ストラ、レミンハウエル戦と同様、自身を極浅深度次元に隠し、次元の裏から光子剣だけを出してロンボーンを攻撃しようと試みる。
「その手を喰うか!!」
ロンボーンが正確にストラと同じ次元に入り、追跡する。
まるで残像か分身めいて、極浅深度を移り変わる2人の姿が多重に映った。
(どうやって、まったく同じ位相空間に……どういう計算をして……!?)
位相空間というのは、理論上無限である。数値が1つでも異なれば、それは異次元だ。極々浅深度では、姿は見えても幽霊のようにすり抜けるようになる。むしろ、それほどの浅深度位相空間位置を計算するほうが難しい。ストラの理論では、まったく同じ位相空間にここまで連続して入ることができることは、まったく謎だった。
(まさか、これも魔力子の利用効果?)
その、まさかである。
ロンボーンの……スライデル人の理論では、位相空間の移動に伴う当該次元のスピースの波を計測、次移動次元を予測して、先回りしている。
そしてその予測は、ロンボーンともなると、ほぼ完璧だ。
ストラは次元潜航を諦め、次の次元に移ると見せかけていきなりロンボーンめがけて光子剣を振り降ろした。
その光子剣を、魔力を凝縮した「手」で、ロンボーンがガッチリと掴んで止めた。
(光子破断効果を、なめるなよ……!)
珍しくストラが感情的となり、光子量を最大にする。アンセルムはテトラパウケナティス構造体によるストラの一部としての武器ではないが、エネルギーはストラから供給される。質量的には、ストラの最大エネルギー放出に耐えられるものではないが、次元航行デヴァイスのフレームにも使われるヴァグネッリ鋼を使用しており、形状から予測される強度の数京倍の強度がある。
ストラから数兆ボルトの電流が刀に送られ、ほぼすべてが光子に変換される。凄まじい光度で刀身が輝き、物質と化すまで凝縮した魔力を切り裂いた。
(こッ、この光はアア……!! 一体……!?!?)
光子武器を実用化していないスライデル人のロンボーン、何が起こっているのか分からず、本体に光子刃が食いこむ寸前、空間を歪めて瞬間移動する。
もし光子剣までストラの一部であったら、超凝縮スピースの手に掴まれた瞬間、分解されてしまう。ヴァグネッリ鋼は、この程度の空間破砕効果ならば余裕で耐えるのだ。
「勝機!!」
ストラも空間から空間に飛び移って一瞬で距離を詰め、超高速行動から光子剣を車斬りに振り回した。その軌跡が円となり、球となって夜の闇をも切り裂いた。
ロンボーンが凝縮魔力の手、触手、脚爪、さらには魔力の塊をひたすら放出して攻撃を防ぐが、フルパワーの光子剣が全て切り刻んだ。
さらに、ストラが余剰エネルギー回収フィールドを展開。
ロンボーンから切り離されたスピース=魔力子を、次々に吸収した。
(こいつ、こんな……!!)
ロンボーンが下がり続けるが、超凝縮スピースの迎撃が追いつかない。
(いったん、逃げだ!!)




