第9章「ことう」 5-9 魔力凝縮法による直接戦闘
光子剣が煌めき、光線のようにロンボーンに突き刺さった。
光子振動効果で分子結合を破断できない物質は、理論上存在しない。
ロンボーンの躯体がどのような材質なのかまったく分からなかったが、光子剣にかかっては、関係ないのだ。
が、ロンボーン、空間バリアとは異なる未知の力場により、強力に光子剣を防いだ。
まるで、念力だ。
(これは……!)
斬りつけた姿勢のまま、ストラが謎力場に押し返されて固まった。
すると、眼前のロンボーンが、変形した。
と云っても、人型ロボットになったわけではなく……頂部を起点に翼が開くように、銅鐸状の躯体が真っ二つに大きく開き、頂部からそれぞれ細いアームが伸びて支えている。
そして、銅鐸の中から現れたのは、ほぼ黒色に近い、禍禍しく赤黒に輝く、3つめの巨大な棒状結晶のシンバルベリルであった。
両開きに開いた銅鐸の中で浮遊しているその赤黒のシンバルベリルこそが、この世界で云う合魔魂に近い、ロンボーンの記憶と思考と精神……すなわち魂魄を移植してあるロンボーンの本体であった。
その本体から、濃密にして濃厚な魔力が、直接噴出している。
(この力は……魔力子そのものか……!)
この世界で云う魔力……ストラの定義する魔力子……そして、スライデル人が定義するスピース……全て同じ、膨大なエネルギーを内在した重い複数の素粒子だが、そのエネルギーを取り出す方法が各文明で異なる。
この世界では、基本的に呪文や術式を通して取り出す。なお、魔族や魔物はそれを生体能力として行う。
スライデル人は、基本的に粒子縮退法によりエネルギーを取り出す。
ストラは、未だ魔力子の利用法則が不明である。
だが、いま、ロンボーンは、スピースからエネルギーを取り出すのではなく、素粒子を直接使用している。
ストラは、ロンボーンの仕掛けた大規模な魔力凝縮による空間破砕ミキサーを思い出した。
(なるほど……法則は不明なれど、魔力子をあそこまで大量かつ高濃度に凝縮する技術がある……素粒子を直にコントロールするのは、余裕ということ……)
冷静にそう分析しつつ、
(で、あれば、この状態から……)
「そのとおりだ、異次元魔王!!」
ロンボーンが、防護壁に使用しているスピースをさらに凝縮、幾本もの赤黒い甲殻類の脚のような状態を形成して、ストラに襲いかかった。
使用エネルギーや位相空間の操作法は異なれど、効果が同じ空間バリアは中和できるが、魔力子そのものは、未だストラにとって未知素粒子であり、中和や対抗攻撃が確立していない。
異文明なれど、ロンボーンはあくまでこの世界の住人であり、ストラは宇宙の法則の異なる異世界の住人なのだ。
「再び粉微塵にしてやるぞ!! 次は、復活できぬほどにな!!!!」
レミンハウエル及びゴルダーイとの戦いで可能性が示された対テトラパウケナティス構造体兵器戦は、ここに、魔力凝縮法による直接戦闘が最も効果的であるとの結論を得た。
この情報は、恐らく他の魔王も掴むことになる。今や、ストラが魔王と戦うたびに、その様子を他の魔王が詳細にリサーチしている。
ストラは超高速行動で瞬時に下がったが、物体と化すほど超凝縮した魔力が時空と重力をゆがめ、速度が急激に遅くなると同時に、なんとロンボーンとの距離が瞬時に縮んだ。
ロンボーンかストラか、あるいはその両方が瞬間移動したのだ。
ストラ、驚愕する。
(位相空間転移効果は認められず……どうやって空間位置を……!?)
ロンボーンの魔力の爪が、易々とストラに食いこんだ。
とたん、ストラがギガトン級の疑似核熱攻撃。
現時点では、ストラにはもうこの超絶的魔力凝縮攻撃に対抗するのは、最悪的に非効率な力技しかない。
ゲベロ島から約20キロの地点だったが、3ギガトン級の疑似核融合反応は余裕で火球内に島を捕らえた。
灼熱が大量の海水を蒸発させ、ゲッツェル山が閃光の中に浮かび上がった。
テヌトグヌへ行った同様の攻撃は空間バリアに防がれ、威力が全てヤマハルに食われたが、いま、猛悪的な爆風が周囲を舐めて、巨大キノコ雲が成層圏にまで届き、その衝撃波は世界を周回した。




