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第9章「ことう」 5-8 アンセルム

 津波は島を回りこんで、避難船も押し流した。


 絶望と憔悴の極みにあり、呆然としていたゲベル人たち、成すすべもなく海水に呑まれて消えて行く。

 


 ヤマハルが激しく燃え盛って海底に沈むのを、ロンボーンはただ空中から見下ろすだけだった。


 その姿はどこまでも無機質で、炎と化学反応の色が、高さ1メートルほどの銅鐸の表面に映って揺らめいている。


 銅鐸の前後には、大きさが人の拳ほどの水晶球のような、臙脂色に光るシンバルベリルが埋めこまれていた。


 色で云えばレミンハウエルの手の甲にあったものより遥かに濃く、同じほどの色合いでもゴルダーイの右眼窩に埋まっていたものの単純に倍だ。


 しかも、生身の肉体を捨てたロンボーンは、一度に放出できる魔力量がケタ違いである。


 そのロンボーンめがけ、先ほどのお返しとばかりに、1000トン級のプラズマ弾が雨あられと襲いかかった。


 ストラである。


 ロンボーンのシンバルベリルが発光、自身の周囲に空間歪曲効果を応用した空間バリアを展開しながら高速移動した。


 ストラがそれを追跡しつつ、さらに高出力レーザーを打ちつける。


 ロンボーン、空間バリアでその方向を捻じ曲げて反射しつつ、自身も魔力……いや、スピースを直接行使。次元歪曲と超超高出力磁場帯により空間砲身を構成すると、砲身内で高濃度スピースを超加速、一種のメガ粒子砲として発射した。


 ストラも、それを準戦闘セミ・バトルモードで使用可能の高出力空間バリアで易々と防ぐや、5メガトン級の疑似核融合熱反応を右手に出し、超絶的磁場で凝縮、コントロールしつつロンボーンへ叩きつけた。


 その灼熱の火の玉が炸裂する前にロンボーンの空間バリアが包みこみ、位相空間転移。攻撃そのものを、異空間へほうり捨てる。


 もはや、互いに生半可な熱核攻撃は通用しない。

 互いの空間バリアの防御力を超える飽和攻撃を行う手もあるが、


 (おそらく、時間とエネルギーの無駄……!)

 ならば、空間戦闘か。

 いや。


 ロンボーンにゴルダーイの「天の眼」ほどの空間攻撃法があるとも思えなかったが、ストラも空間戦に特化しているわけではない。ストラの空間攻撃系プログラムは、あくまで直接戦闘の補助だ。


 と、なると、もう純粋かつ物理的に殴り合うのみ・・・・・・となる。

 空間バリアが機能しないほどの、超近接戦闘だ。


 ストラが人型であり、格闘や武術系のプログラムが組まれているのは、人類偽装行動の一環でもあり、このように高出力熱攻撃が通用しない時の為でもある。


 そして、そうなったときに莫大な攻撃力を誇るのが、キースィヴ式光子振動型原子構造破断剣、通称「アンセルム」である。


 これは、もはや銘「アンセルム」と云ってもいい。


 ストラの装備の中でこの光子剣アンセルムのみが、テトラパウケナティス構造体兵器ではなく、実体だった。


 従って、非常に破壊されやすい。特にストラの高出力攻撃にあっては、自らの攻撃の余波で壊れる可能性が高い。


 そのため、常にテトラパウケナティス構造体被膜で護り、かつ空間バリアでも保護している。


 これまでの魔王との戦いでも無傷だったし、なおかつ、先ほど全身が分解されヤマハルの炉に吸収された際には、この光子剣アンセルムだけ次元格納庫に隠した。


 いま、それを取り出す。


 ストラが空中で高く右手を掲げると、次元反転し、その手の内に格納庫から光子剣アンセルムが出現した。


 凄まじい量の光子がほとばしり、超新星のように夜空に光り輝いた。

 「近接格闘戦か!!」

 銅鐸姿のロンボーンから、狂気的に喜悦した声が響いた。


 「互いの熱破壊攻撃が、効果なし! ならば、そう・・だろうな!」


 効果なしと云っても、ストラがフルパワーならば、たとえロンボーンでも瞬殺だろう。


 いま、ヤマハルに吸収されたエネルギーを奪い返し、尚且つ、黒色シンバルベリル4個分のエネルギーも奪って、ストラはようやく1テラトン規模の総エネルギー残量……0.001パーセントまで回復していた。


 (ロンボーンを攻撃しつつ、赤色シンバルベリルをエネルギー回収フィールドに取りこむ……!)


 ストラの作戦は、その一択だった。

 ただロンボーンを破壊するのではなく、狙いはシンバルベリルのエネルギーだ。

 「セイッ!!」


 音速を超える超高速行動ハイ・マニューバから、瞬間移動のように距離を詰める。ロンボーンが空間バリアを展開したが、ストラが近接で中和かつバリアを回避してロンボーンに迫った。

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