第9章「ことう」 5-6 再構築と反撃
また、超凝縮魔力ミキサーはあくまで空間破砕効果と「同じ効果」を物理的に得ているだけであり、実際の空間破砕兵器とは異なる。
結論から云うと、構造体は完全に破砕されなかった。
微量の構造体が残り、基礎プログラムを保護。
さらに、エネルギーが拡散しないで、そのまま全量がヤマハルの縮退スピース炉に送りこまれたのも幸いした。そのエネルギーに乗って、微量の構造体もヤマハルの縮退スピース炉に侵入した。
さらに、追加エネルギーとして黒色シンバルベリル(小)4個分の魔力子エネルギーがぶちこまれたのも幸運だった。
超高温・超高圧・超高磁場の縮退スピース炉内部は、ストラにとって、最初にテトラパウケナティス構造体の基礎躯体立ち上げを行う、恒星衛生軌道上のテトラパウケナティス構造体兵器製造炉に環境が酷似していた。
そのまま、躯体の再構築を行った。
いったん光速演算が始まると、凄まじい速度でエネルギーを溜めこみ、構造体が増殖。
だがそのままでは、ヤマハルはストラに全エネルギーを食われて、真っ逆さまだ。
次元浮遊により、ゲベロ島から慣性や重力を無視して真上に向かったので、そのまま真下に落ちる。
ゲベロ島に、今度は本当に落ちることになる。
そうなる前に、炉内から次元ハッキングを行い、船の全コントロールを奪ったにすぎない。
現象の全てを、ストラから強制的に知らされて、ロンボーンが屈辱と怒りで煮えたぎった。
「いいいい異次元んんんんん魔うぉうおうおうおおおおおううううがああああああ!!!!!!」
ストラのホログラムが、冷徹にその魔王ロンボーンを見下ろした。
ストラとしては、ロンボーンの赤色シンバルベリルのエネルギーすらも、吸収したい。そのためには、冷静さを失わせ、とにかく戦闘に引きこんで、機会を作るのである。
ロンボーンは、ヤマハルの縮退スピース炉内に潜むストラの本体に対し、炉の内圧逆転を仕掛けた。ヤマハルの全コントロールをストラに奪われたが、極一部の重要極秘回路は、隠し回路として非物理的に次元秘匿しており、生半可な空間ハッキングでも分からない。もっと時間をかければ、ストラもその秘匿回路をハックできただろうが、
(まだ、こんな緊急非常回路が生きて……激昂しているけど、冷静……!)
スピースを量子レベルで縮退させることによってエネルギーを取り出す縮退スピース炉において、逆転運転すると逆にエネルギーを奪ってスピースに変換する行程が生まれる。
つまり、ストラに奪われたエネルギーを奪い返し、スピースに変換するのだ。
が、一撃でストラが内部より炉を爆破。
全長が60メートルほどもある巨大な装置が、大爆発した。
前方から三分の一ほどの箇所で、空中のヤマハルが真っ二つに折れた。
折れたまま、まだ次元浮遊してる。
ストラが物理的にヤマハルから離れたのと、ハッキングの起点にしていた炉が物理的に破壊されたことで、ロンボーンがコントロールを奪い返した。
まだ、かろうじてエネルギーは残っている。
が、この状態では、もはやスライデル帰還はおろか、大気圏離脱も不可能だ。
「きぃいいいいいいいいーーーーーッッ!! さぁーーーああああああまああだあああけえぇーーーーええうぇえええはああぁぁあああアアア!!!!」
一瞬にして3500年間の全てを失い、ロンボーン、もはやストラを倒すことだけが最期の希望となった。
大口径スピース粒子砲、高出力レーザー砲、対近接レーザー機銃、その他物理的なミサイル類のカバーが全て開き、一斉にストラを攻撃した。
船体後方も、畜スピース結晶によるサブ機関があり、まだ生きている。ロンボーンは、念力にも近いコントロール法で、折れた船の前部と後部を同時コントロールしていた。
それも、ストラにしてみれば、けっこうな離れ業だった。
(物理的に分離した船体を、同時にコントロール……完全に方法が不明……魔力子使用未知文明の手法による……!)
凄まじい近接艦砲射撃が行われ、圧縮された高熱プラズマが成層圏を様々な色に染めた。物理的な大きさでは、マグロがミジンコを攻撃するようなものだが、やはりそこは魔力による敵機の把握と自動攻撃が行われている。ストラがいくら高速かつ連続で回避しようと、大小の指向性のビーム兵器が軌道をひん曲げて、どこまでも追尾した。
さらに、ホーミングミサイルが何万発とストラを追う。
(こいつ、輸送艦の癖に、こんな火力……!)
先ほど船体の全てをコントロール下に置いた際に、火器管制も当然把握したが、よほどの危険地帯を突破する輸送船団を組んでいたようで、まさに準戦闘艦並の火力を有しているのだ。
しかし、
(残存エネルギーでは、飽和攻撃可能時間は、20秒も無いはず……!)




