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第9章「ことう」 5-2 再点火

 そこで注目したのが、いまとなっては誰が発明したのかも分からないが、この世界で魔力を凝縮・蓄積する唯一の手法にして物品、シンバルベリルである。


 ロンボーンの概念でいう「畜スピース結晶」に、非常に似ていたので、それを見た時には驚くと同時に感動した。


 「この世界でも、結晶化ができたのか……」

 灯台もと暗しというか、原点に帰るというか……。


 だが、ロンボーンの技術では、どうしても濃赤色を製造するのが精一杯だった。ロンボーンはスピース結晶製造技術者ではなかったし、この世界の魔術を駆使しても、黒色ともなると職人業を超えた神業と、特殊な条件が必要なのだと分かった。その特殊条件の再現成功には、未だに至っていない。この星の者でなければ、条件はそろわないのではないかとすら思われた。


 計算によると、ヤマハルの爆縮スピース炉に「再点火」するには、瞬間最大出力で小規模黒色シンバルベリル9個分の魔力スピースが必要だった。


 自ら作ることができなのであれば、集めるほかはない。


 しかし黒色シンバルベリルなど、この世界でもそう簡単に入手できるものではなかった。


 タケマ=ミヅカですら、ひたすら魔王を倒す旅の中で3つ集めるのがやっとで、それを奪おうとも思ったが、世界を固定する作業を妨害して世界が滅んではヤマハルも失われてしまい本末転倒だ。


 いま、ロンボーンの手元にある黒色シンバルベリルは、4つだった。

 それでも、4つ集めたのである。


 「このまま気長に集め続けるのも良いが……タケマ=ミヅカ殿が申すには、神と化して行使した世界の要の役も、もう限界とのこと……。私としては、この世界が巨大スピース雲流に呑まれる前に、是が非でもヤマハルをスライデルに戻さなくてはならない……」


 スライデルとは、ロンボーンやゲベル人の祖先の母星系の名称である。


 この世界の3500年という時間が、スライデル人にとってどれほどなのかは分からないが、ロンボーンの精神も思考も完全に破綻して常軌を逸し、もはや宇宙船の再起動のみが絶対的にして唯一、神聖な目標になってしまっているのだった。


 ロンボーンがゲベル島の魔力を吸収しているのは、最低限、ヤマハルの機能維持のためである。本当に最低限で、かろうじてメインコンピュータ(に相当する部分)のシステムが生きている状態を3500年以上維持している。


 そこに、黒色シンバルベリル4個と、先に吸収した5ギガトンに加え、ストラの495ギガトンに匹敵する残エネルギーを一気にぶっこんで、古代の宇宙船は耐えられるのだろうか?


 流石にそれは、ロンボーンにとっても賭けだった。

 だがもう、やるしかない。

 この機会を失えば、次に何千年待つのか、見当もつかぬ。



 テヌトグヌがストラの攻撃を次元複写でかわしつつ、最終的にはストラごと魔力凝縮ミキサーに吸いこまれて粉微塵となって消失したと同時に、ストラの肉体……テトラパウケナティス構造体も次元的に粉砕されて、溜めこんでいた495ギガトン相当の極大的なエネルギーが一瞬で全開放された。


 そのエネルギーを魔力の口がブラックホールめいて全て呑みこんで、次元回路を通してヤマハルのスピース炉に直結する。ストラのエネルギーは魔力子(マギコリノ=スピース)によるものではないが、得られる純粋なエネルギーとしては同じだ。いま、ヤマハルの炉を再点火するのに、巨大なエネルギ-が必要なのだ。


 さらに、黒色シンバルベリル4個である。


 正直、タケマ=ミヅカが合魔魂テルミルを果たしたシンバルベリルに比べると、同じ黒色でも段違いに小さい(弱い)シンバルベリルだが……それでも、4個というのは尋常ではない魔力量だ。


 単純に比較はできないが、分かりやすく単純比較して、最低でも400ギガトン相当のエネルギーはあるだろう。


 それも炸裂し、スピース炉に送りこまれる。


 殖民開拓船とはいえ、巨大タンカーのようなものだから、下手をするとそこらの戦闘艦よりスピース炉の出力は大きい。それゆえに、炉の点火には凄まじいエネルギーがいる。スライデル星系では、超凝縮スピース燃料の点火に、恒星のエネルギーを利用していた。


 「うおおおおおお!! 来た!! 来たあ!! 来たぞ、来たぞ来たぞ来たぞ来たぞ来たぞ来たぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


 真っ暗の空間が、一気に明るくなる。

 船内に、3500年以上ぶりに照明が灯った。

 大きな空間だった。


 コクピット……いや、艦橋だ。

 様々な方向に数十と並ぶ椅子には、誰も座っていない。

 無人である。

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