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第2章「はきだめ」 1-4 夜の街の喧騒

 「おっと……ゲッシッシッシシ……すいやせん。えー、勿体もったいはこれくらいにいたやして、えー……カンパイ!」


 「カンパーイ!」


 ペートリューが、砂漠で水を飲むより早くゴブレットを開け、二杯目、三杯目と立て続けに飲む。


 「……ところでペートリューさん、御実家には、顔を出さなくてよろしいんで?」

 ペートリューは樽の前で小さく肩を振るわせ、振り返らずに答えた。


 「ダンテナで修行しているとき、組織の抗争にまきこまれて、父も母も死んだそうです。この街は、そういう街なんです」


 「はあ……そりゃ、お気の毒に」


 「だから、ストラさんが……組織の連中をボゴボゴにして、金を巻き上げてくれるのなら……それは復讐なんです、私の」


 プランタンタンが、息をのんでそんなペートリューの暗い影を下ろす後ろ姿を見つめる。


 と、ペートリューが無理に明るい顔を造って振り向いて、

 「じ、じゃあ、夜にまず選手登録に行きますので……仮眠を……」

 「合点でやんす」


 寝られるときに寝る習慣が染みついており、プランタンタンは獣めいて急な階段を上ると天井裏の狭い部屋(落ち着くからと、自らそこを選んだ)へ行き、そのまま寝てしまった。


 「ウフフ……んヒュフフ……」


 ペートリューが不気味な笑みを浮かべ、寝酒にひたすら樽からワインを注いでは飲み続けた。


 そしてちょうどボトル三本ぶんを飲んだころ、ストラが背後から脳に高周波をぶちこみ、強制的に眠らせた。

 


 その、夜である。

 「うわっ」


 あまりの明るさに、プランタンタンは目を細めた。夜間視力のあるエルフには、昼よりまぶしい。通りの至る所に大小さまざまな松明、ランタンが掲げられ、建物の窓という窓も煌々とオレンジに光っている。人通りは、昼間の二、三十倍はあろうかと思われた。


 「ひぇええ! こ、こんなにたくさんの人が、どこにいたんでやんす!?」


 「ま、街のそれぞれの区画に宿もありますし、周辺の村々にも宿泊所が。フランベルツ一の歓楽街ですからね」


 「昼夜間人口差は、いま現在で27,583人。全人口の64.47%」


 三人ともフード姿で通りに出たが、出歩いている人々のほとんどが同じような姿であり、また雑踏の喧騒でプランタンタンは方向が分からなくなって、


 「プランタンタンさん、こっちです!」

 「え、どっちでやんす?」

 どこからペートリューが話しかけてきているのか分からず、戸惑った。


 「こっち、こっちです! 絶対はぐれないで!」

 ケープ越しに腕を掴まれ、引っ張られる。

 「いやはや……田舎もんには厳しいところでやんす」


 それから少し進んで、交差点でペートリューが立ち止まった。

 「ええと……ええ……どっちだったかな……」

 「こっち」

 ストラが、何の迷いもなく歩き出した。


 「えっ、ストラさん、御存じなんですか?」

 「きっと、得意のタンチ魔法でやんすよ」


 いそいそ・・・・とストラに続いたプランタンタン、すれ違いでぶつかりそうになったフードの人物をひょいと避けたとたん、反対側にいた大柄な男にぶつかって、はね飛ばされて石畳に転がった。


 「なんだあ手前てめえ!!」


 この街ではもう挨拶代わりのような怒声が、夜の喧騒に轟いた。いつものことなので、皆無視して歩きを止めない。一部の野次馬だけが、歩を止めて輪を作った。


 大柄な男はフード姿ではなく、身長が190センチはある三十がらみの体格の良い人間だった。フード姿でないということは、まず間違いなく組織の人間である。闇闘技場のあるこの区画では、フィッシャルデアの人間と観るのが妥当だ。


 男は周囲の野次馬の輪に気を良くし、前に出ようとする三人の取り巻き……若いチンピラどもを制止して、自ら声を張り上げる。


 「立て、手前てめえ! オレを『フィッシャーデアーデ』総合七位、格闘一位のガンダと知ってぶつかってきたんか? ああ!?」


 「フィッシャーデアーデ」とは、これから向かう闇闘技場のことだ。そのまま、試合興行のことも意味する。そこの総合ランク七位とは。どおりで、顔出しで偉そうに歩いているはずだ。


 (あばばばばば……! ヤバヤバヤ……どうしよどうしよどうしよ……!)


 すぐ後ろにいたペートリューがフードの下で震え上がり、魔法で助けようとしたが、何の魔法も思い浮かばなかった。


 取りあえず水筒から酒を飲む。

 「立てっつってんだ!」

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