第9章「ことう」 4-4 謎の金属片
「こいつあ、すげえでやんす!!」
プランタンタンがペートリューを押しのけて、ひっくり返した。頭の下に敷いていた紙のように薄い金属片を丸めたものを手に取り、
「これこれ、これでやんす! ペートリューさん、いってえこれをどこで!?」
しかし、当然ながら転がったままペートリューは起きなかった。
こういう時は、酒の匂いを嗅がせると一発で起きるのだが、酒などない。
プランタンタンは何度も舌打ちをし、何か良い手立てはないか、考えた。が、
(酒以外にペートリューさんを起こす手立てなんか、思いつかねえでやんす)
瞬時にそう判断する。
と、ペートリューが持っていた鞄が木の根元にあるのを発見する。
中をまさぐると、水筒が何本も入っていた。
どれも重いので、カラではなく、水……いや、酒が入っている。
(なんだ、酒があるでやんす)
プランタンタンは水筒の蓋を取り、強烈な臭いに顔をしかめた。ワインではない。蒸留酒だ。マンシューアルのものほどではないが、かなり独特の香りがある。
ペートリューが、甕のスドイヌリイを飲みつくすと共に、水筒にもたっぷりと補充していたのだ。
それが12本であるから、当然、鞄はかなりの重量である。
酔っているとはいえ、それを軽々と下げてここまで登ってきているのも不思議な話だ。まともに考えれば、ペートリューの体力と運動神経では、不可能だ。
おそらくこれも無意識で、格闘魔法のように酔っている時だけ魔力で自身の肉体を強化しているのだろう。
しかも、ルートヴァンですら実行するのに苦労した、魔力の振動数調整すら無意識で行って。
(こんなもの、どこで手に入れたんでやんすッ!)
プランタンタン、水筒をなるべく離して持ち、ペートリューに近寄ると、
「ペートリューさん、ほれ! 起きてくだ……」
そこで酒の臭いを吸いこんで、豪快にむせた。
そして、水筒の口から酒がこぼれた。
「なあああああにやってんだあああああ!!!!!!!!! こぼすんじゃねええええええ!!!!!!! もったいないだろうがあああああああああ!!!!!!!!」
闇に魔力で両眼を光らせ、ペートリューが飛び上がって水筒を奪い取ると、一気に半分ほど飲んでしまう。
「やれやれ、ホントに一発でやんす」
「あれ、プランタンタンさん」
これも無意識で、魔力により闇を見通す眼(魔力の直接使用で、むしろ闇を視る術より高レベルである)を使い、ペートリューがきょとんとしてプランタンタンを見つめた。
「あれ、じゃねえでやんす!」
「ここは?」
「知らねえでやんす」
プランタンタン、そんなことより、
「ペートリューさん、これ! これをどこで見っけたんでやんすか!?」
プランタンタンが、ペートリューが枕にしていた丸めた金属箔を差し出した。
「なんですか、これ」
「チィッッ!!」
プランタンタンが、容赦なく舌打ちした。
「どこで拾ったのか、覚えてねえんで!?」
「拾ったのは、あっちです。たくさん積んでありますよ」
「えっ」
プランタンタンがもう、走った。
一気にマッピ畑の最深部まで行くと、
「うッひょおおおおお!! すげえ! すげえでやんす!! こりゃあすげえええ!! ペートリューさん、見ておくんなせええ!! こんなに! 山みてえに積んでるでやんすーーーーー~~~~~~~~~~~~!!!!!! ギェヒェッ! ゲェッヒェッヒェッシシッシシシッシシッシシシシシシィ~~~~~~!!!!」
闇の奥からプランタンタンの笑い声が不気味な鳥の声のように轟き、ペートリューは嘆息して立ち上がると、水筒が詰まっている鞄を軽々と肩にかけ、マッピの木の間を昼みたいに歩いた。
「ペートリューさん、ホレ、ホレ!」
プランタンタンがピョンピョンと跳びはね、薄い金属片の山を指さした。
「これって……?」
大小様々な金属片……一部は非常に薄く、金属箔と云ってもよい……が、3メートルほども積み上げられていた。これが何なのか、何のために積んであるのか、なぜここに積んであるのか、まったく分からなかった。
いや、そもそもこれは、金属なのか?