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第9章「ことう」 4-2 最大の誤算、そして克服

 (い、一か八かやってみるか……? しかし、父上の魔力も島に吸収されたら、一貫の終わりだ……!! ど、どうする……!?)


 ルートヴァン、顔を歪めて奥歯をかむ。

 しかし、ここで突っ立っていてもしょうがない。


 (ままよ!!)

 ルートヴァンが、ヴィヒヴァルンに向けて「チャンネル」を開く。


 ヴィヒヴァルン王城の地下に鎮座する父王太子から、魔力を供給してもらうためだ。


 これまでは、思考するだけで「接続」が完了し、魔王級の魔力が怒濤の勢いで雪崩こんできたが、


 「…………」

 チャンネルが・・・・・・つながらない・・・・・・

 術が発動しなかった。


 「えっ……?」

 そもそも「接続」しないのだ。

 ルートヴァン、一瞬で理解。

 「そういうことか!!」


 魔力供給の秘術すら・・・・発動しない・・・・・ほど、魔力が低下しているのだ。

 (進退、窮まったあああああ!!!!)

 ルートヴァンが口に手を当て、ガックリと地面に膝をついた。


 (そ、そこまで・・・・とは、想像もしていなかった……!!)

 自分の考えと認識の甘さが、この土壇場でとんでもないミスを誘発した。


 ヴィヒヴァルンから魔力が供給された場合、その魔力が島に吸収されるかされないかというシミュレーションはしていたが、そもそも「魔力供給が不可能」とは、考えもしなかった。


 根本から想定が狂った。

 (どど、どっ、ど、どうする……!!)


 ルートヴァン、生まれて初めて味わう絶望と屈辱、失態の恥辱に、山の斜面に膝をついたままガクガクと震えだした。全身の血の気が下がり、たちまち、意識が遠くなる。


 「……?」

 少し行ったところで、フューヴァが振り返った。

 ルートヴァンが斜面に座りこんで、固まっている。


 「おいルーテルさん、何やってんだよ!」

 驚いてフューヴァが叫んだ。

 「ストラさんが、魔王退治を始めちまうぜ!!」


 (…………)

 意識を失いかけたルートヴァンが、フューヴァの言葉に、息をのむ。

 (ちょっと待て)

 「ルーテルさん!」


 (ストラさん……そうだ、僕はさっき、聖下になんと云った!? テヌトグヌが、己の魔力を維持していることについて……!!)


 さらに大きく息を吸い、目を丸くした。顔を上げて、ゲッツェル山の向こう側で花火のように炸裂する閃光を見やる。


 (魔力の振動数を・・・・・・・……調整する・・・・……)

 ルートヴァンは口を引き結び、また震えだした。

 (できるか……僕に……!!)


 そしてハラを決め、フューヴァと同じく何度も深呼吸し、頬を叩いた。

 (できるか、じゃない!! やるんだ!! やるんだよ、ルートヴァン!!)

 「おい、ルーテルさん、聞いてんのかよ!?」


 「ちょっと待って!!」

 「はあ!?」


 叫んだ後、ルートヴァンがひそめた眉に右手の指先を当てて瞑想のようなことを始めたので、フューヴァは大いに戸惑ったが、


 (こいつ、意味のねえことをする人じゃねえ……)

 推移を見守る。


 だが、その間にも山の向こうでは大掛かりな爆発音や閃光が明滅し始め、地震のように島全体が揺れ始めた。またこの騒動にゲベル人たちの村も明らかに混乱しはじめ、風に乗って喧騒が聴こえてきたし、すごい数の明かりが村の中を行ったり来たりし始めている。


 その中でも、ルートヴァンは微動だにしなかった。

 (な、何やってんだ……!?)


 何分も経っていないが、せっかちなフューヴァは緊張と焦燥で倒れそうになった。


 また凄まじい爆発が起き、周囲が昼のように明るくなったと思ったら、爆圧と爆風が山を越えて迫った。フューヴァはまぶしさに眼をつむりつつ耳をおさえ、たまらずに今来た道を戻る。


 「おおい、ルーテルさん、どうしちまったんだよ!?」

 ルーテルは、瞑想したまま答えなかった。

 「ルーテルさん!」


 フューヴァが2メートルほどまで近づいたとき、

 「できたあああああ!!」

 いきなり、ルートヴァンが眼をむいて立ち上がった。


 「なにが!?」

 「できたよ、フューちゃん!!」

 「だから、なにがだよ!?」


 「やればできるじゃないか!! さすが僕だよ! ハハハハハ!!」

 「ふざけてんじゃねえぞ、てめえ!」

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