第9章「ことう」 3-15 2つの質問
その言葉にルートヴァンはやおら昂奮し、透明ながら耳まで真っ赤になって、
「なっ……なんたる光栄!! 栄誉!! 名誉に御座りましょう!! せせ、聖下に御講義させて頂けるとは……なんなりと!! 御聴き下されませ!!」
ストラはそんな昂奮を意にも介さず、淡々と、
「まず、このゲベロ島全体の魔力濃度が非常に低いのはルーテルさんも確認している通りです。しかし、この島の魔王に服属していると思われる上級魔族……個体名『テヌトグヌ』は、観測する範囲では、その潜在魔力を低下させておりません。仮に、体内に何色かのシンバルベリルを保持していたとしても、島全体で魔力吸収現象により魔力濃度が低下しているのならば、テヌトグヌの潜在魔力も少なからず影響を受けると推測されます。しかしながら、テヌトグヌの魔力値は、少なくともこれまで戦闘を経験したシンバルベリル内在型上級魔族と比較しても、なんら衰えている様子はありません。この現象について、ルーテルさんの意見を求めます」
「…………」
ルートヴァンはやや呆気にとられ、ストラの流れるような言葉を聴いていたが、
「あ、う……オホン! ハハッ……ええ、いまの聖下の御説明に関し……思うところがあるとすれば……その……」
情報が少なすぎて憶測以外で答えようが無かったが、ここは現場だ。学院とは違う。脳をフル回転させ、憶測の中でも最もそれらしい答えを引きだす。
「恐れながら申し上げます……おそらく……あくまで、おそらくなのですが……」
「かまいません。現段階では、情報が少なすぎます。推測でけっこうです」
「ハッ……! では、恐れながら、この島が魔力を吸収し、何をしているのかは、まるで想像もつきませぬが……テヌトグヌなる北海の魔王の忠実なる手下……おそらく、自らの魔力は吸収されぬように、何かしらの工夫をしているのものかと……」
「工夫ですか。例えば、どのような」
「た、例えば……! 例えば、えーと、その……」
「シッ……ゲベル人の捜索隊が急速接近中」
云うが、ストラがルートヴァンを抱えて空中に待った。約3メートルほど浮かび上がったところで、
「おい、誰かいるのか!!」
明かりを持った数人のゲベル人が現れ、ルートヴァンがいた芝生を照らしつけた。
「誰もいないぞ」
「話し声がしたんだけどな」
ホーッ、とみな緊張から開放された。かなり憔悴している。無理もない。朝方から、ずっと走り回っているのだ。
「……いつまで探すんだよ、これ」
1人がぽつねんとつぶやき、もう1人に叩かれる。
「テヌトグヌ様の命令だぞ」
思いがけず、テヌトグヌの名前が出てきたので、空中のストラとルートヴァンが話に集中する。
なお、ストラもルートヴァンも透明状態であるが、ストラは光学迷彩であり本当に透明になっているわけではないので、ゲベル人たちの照明器具により微細な影や光の歪みが現れ、僅かながらにも発見される可能性があったのと、ルートヴァンは透明だがあの状態で接触されたらやはり発見される恐れがあったため、念のために物理的に距離をとったのである。
「朝には、テヌトグヌ様の準備も終わるらしい。それまで頑張れ。見つからなくてもいいんだ。我らが、ずっと探していることが大切なんだぞ。連中を逃げ回らせろ。テヌトグヌ様の邪魔をさせるな」
「分かったよ」
重いため息と共に1人がそう答え、
「行こう」
みな、行ってしまった。
完全に離れたことを確認し、ストラが元の芝生に下りる。
「……聖下、いまの連中の話を聴きましたか」
「はい。そして、2つめの質問がまさにそれです」
「と、云いますると……」
「テヌトグヌは、温存されている大魔力を使って、この島の広範囲に渡って何かを魔力的に構築しています。おそらく、大規模な魔術と思いますが、私は魔術のことはまったく分かりません。ルーテルさんに、テヌトグヌが何をしているのか、予測してほしいのです。それによって、今後の行動を判断します」
なんたる責任重大な。
しかし、先程のゲベル人たちの言葉により、ルートヴァンもピンと来るものがあった。
「聖下、先程の話の続きと、いまの2つめの御質問で御座りまするが……おそらく、テヌトグヌなる魔族めは、魔力の振動数を変えているのではないでしょうか」
「振動数」




