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第9章「ことう」 3-14 攪乱を続ける

 スポットの魔力はまあまあの濃度で、偵察用のカラス……は無理だったが、スズメ程度の小鳥なら造り出すことができた。それを飛ばして屋根の上から通りの様子を見ていたルートヴァン、プランタンタではないが口を押さえて声を出さずに肩を揺らして笑い、


 (クックッククク……ああ、おかしい……フン……他愛もない連中だ。どれ、さらに驚かせてやるとしよう……)


 非常に低レベルな初心者用の「魔法の矢(1本)」に加え、「花火」というこれも初級魔法を合わせる。


 やおら、ヒュウー! と甲高い音がして、パーン!! 乾いた破裂音がどこともなく轟いたものだから、その音を聴いた一部の村人はパニックとなった。


 「何の音だ!」

 「女子供は、家に隠れろ!!」

 「魔王だ、魔王の仕業だ!!」


 「だめだ、テヌトグヌ様にお知らせしろ!!」

 「こんな体たらく・・・・で、テヌトグヌ様に御報告できるものか……!」

 「なんとしてでも、連中を見つけ出せ!!」


 3班に別れた捜索隊が、顔を真っ赤にして叫んだ。

 ルートヴァンは腹が痛くなるほど声を出さずに笑い転げ、

 「どれ、しばらく泳がせるか……」


 スポットから外れて、悠々と偵察のために村を歩き始めた。

 そして、その途中で、

 (あれっ、あれはフューちゃんじゃないか?)


 店先で老年のゲベル人女性が心配そうな顔で通りを見渡しているその店棚に並んでいるものを、路地からゆっくりと顔を出し、サッと手を伸ばしてかすったのは、紛れもなくフューヴァだった。


 (たくましいなあ……というか、ありゃ、なんだ? フューちゃんは何をとったんだ?)


 まだ透明を維持しているルートヴァンが店に近づき、ゲベル人女性の横からよく観察すると、なにやら雑穀を丸めて作った大きな団子というか、おにぎりのようなものだった。


 (なるほど、腹ごしらえね……この女性には悪いが、僕も頂こう)


 ルートヴァン、木の皮のような敷物の上に並んでいる大きな団子を2つ、手にとると、そのままフューヴァの消えた路地に入った。


 フューヴァは既に跡形もなくいなくなっており、感心すると同時に団子を頬張る。

 (なんだかよく分からない穀物だが……なかなか、うまい)


 ちょっとモチモチして、飲み物が無いと飲みこみづらいのが難点だったか、スードイを蒸して半潰しにして丸めた大団子は、かなり腹持ちの良い非常食といえた。


 そして通りをそのまま抜けると、通りのはす向かいの店から出てくる2人組を発見した。なにやら荷車に甕を縛りつけ、そのまま2人で運びはじめた。


 ルートヴァンはピンときて、


 (ありゃ、もしかして酒か? 酒といえばペーちゃんだが……なんでこの島の連中が酒を運んでいるんだ?)


 ルートヴァンは興味がわき、後をつけようとしたが、やっぱりやめた。

 ペートリューと関わり合うのが、嫌だったからだ。

 (ま、なんとかなるだろう……ゲベル人から酒をせしめてる・・・・・くらいなんだからな)


 笑いながら村の外れにひそみ、夜を待つことにした。そのうち、ストラから連絡が来るだろうと思っていたし、時々腹話術や花火で攪乱しておけば、フューヴァやプランタンタン達も逃げられると思ったからだ。


 (さて、何人が無事にあの火山の麓に集合できるかな?)


 ルートヴァンは、細く白い蒸気の噴煙を上げている、ゲッツェル山を見上げてそう思った。


 気温は温暖だが緯度が高いためか、意外と早く日が暮れてきた。


 ゲベル人たちは松明やマッピ油を使ったランプを持ち出し、さらに範囲を広げて夜間も探索を続けるようだった。


 (諦めが悪いねえ……)

 ルートヴァンは大欠伸をして、また適当に術をかけ、攪乱を続けた。

 と……。


 「ルーテルさん」

 すぐ近くでストラの声がしたので、芝生に横になっていたルーテルは飛び上がった。

 「ハ……ッ!! 聖下の忠実なる僕にして使徒ルートヴァン、ここに!」


 と、透明なまま条件反射めいて片膝を着くが、ストラもまだ光学迷彩で姿を隠していたので、どこにいるのか分からなかった。


 従って、声だけがする。


 「当該島を表層三次元探索しておりましたが、目標の上級魔族と思われる個体が、不可思議な行動をとっていることを確認しました。私の定義では理解不能なため、ルーテルさんの意見を聴きたいです」

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