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第9章「ことう」 3-12 ゲベロ島の御宝

 プランタンタンは路地から路地、通りから通りへネコみたいに移動し、まず村の中でも大きめの建物を探した。神殿、村長や酋長の家、大商人の家。そういう類のものだ。まずそういうところに御宝があるのが、常識である。


 しかし、神殿らしき宗教施設は見つからず、大商人というほどの大きな店も無いことが判明した。村長の家らしき大きめの家もあったが、格別に大きいという程でもなく、見た目も他の家々と大して変わらない、漆喰の壁のような灰色ののっぺり・・・・とした建物で、屋根も板葺きだったので、とても御宝があるようには見えなかった。


 昼も過ぎたころ、最後に、公民館か、集会所のような場所へたどり着いた。

 周囲を何周かしたが、人の気配もなく、中も静かだった。

 (ここが、神さんに祈る場所でやんすかね……?)


 と思ったその時、山のほうから何人かのゲベル人が歩いて来るのに気づき、急いで近くの木に登って隠れた。


 奇しくも、それは夜にフューヴァが登ることになる立ち木だったのだが……。


 5人ほどの男女のゲベル人たちは、肩から下げた籠に、何か乳白色の、大きな力で引きちぎられたような、何かの破片のようなものを入れていた。その破片の正体はまるで分からなかったが、日光を受けてキラキラと微細に輝き、何かしらの金属片であることに疑いはなかった。


 遥か上空から地上の獲物を見つけた猛禽類のように、プランタンタンの全視力がその金属片に集中する。


 (あああああれでやんすうううううううううううううう!!!!!!!! あれが、この島の御宝様に違いないでやんすううううううううううううううううううううーーーーーー~~~~~~ッッッッッッ!!!!!!!!!!)


 だが、その5人を襲撃して籠を奪うのは愚の骨頂であるし、そもそもそんな能力ちからも無い。


 プランタンタンは素早く木を下り、5人が通る山道の端の藪に身を隠した。そして、通りすがりの5人の会話を聞き出す。


 が、何を云っているのか、まったく分からなかった。

 さしものタケマ=ミヅカの言語変換魔術も、この島の魔力濃度では発動しないのだ。


 「チッ」

 あからさまに顔をしかめ、プランタンタンは5人が歩いてきた山道を見た。

 そして、一目散に山道を昇り始めた。


 (きっと、あの御宝様を求めて、わざわざこんな島まで密貿易団が来てたんでやんすねええええ~~~! ゲひぃえぇえッッシシッシヒッヒッヒッ!! イイッシシッシシッシッシッシッシシシ~~~!!!! あの御宝様を集めて、ストラの旦那の魔法の倉庫に、たんまり・・・・と隠しておくでやんすうううう~~!!!! きっといつか、何かの役にたつでやんすうう~~~!!!! ゲヒェッッシシッシシッシッシッシッシッシッシシシシシシ………~~~ッッ~~~……!!!!!!)


 割と急峻な山道を軽々と登りながら、プランタンタンは前歯を見せ、肩を揺らしていつまでも楽しそうに声を出さずに笑い続けた。



 さて、ルートヴァンである。


 杖術を駆使して港の隅から脱出した後、一行の逃走を手助けするために、様々な魔術を使って妨害工作を行った。


 と、云っても、こんな魔力濃度が薄い場所で使える魔術は、ルートヴァンをもってしても、まさに魔術院の初等科の子供たちが、生まれて初めて使うような魔法ばかりだった。


 それでもルートヴァンだから使えるのであって、並の魔術師であればまったく発動しないか、発動しても一瞬で効果が消えるレベルである。


 大柄なルートヴァンが魔術師ローブをひるがえして通りを走っていると、みな驚いて建物にひっこむか、何か棒や道具を持って後を追いかけてくる。


 元より体力に自信はなく、いつまで走って逃げているわけにもゆかぬ。


 ルートヴァンは適当な裏路地に入ると、もう初歩も初歩、8~10歳ほどの子供が最初に唱えて一喜一憂するような「姿を隠す」魔術を思考行使。


 だが、発動しなかったので、本当に久しぶり……何年ぶりか自分でも覚えていないくらい……に、呪文を唱えた・・・・・・


 「アヅゲェル・ゲルァウス、グルッデルナウス!!」


 古代ヴィヒヴァルン魔法語で、直訳すると「偉大なる王、我が姿を隠し給え」というほどの意味である。


 すると、ルートヴァンが消えた。

 路地の角を曲がって、細い道に入る。

 その横を、どやどやと数人のゲベル人がルートヴァンに気づかずに行ってしまった。


 息を切らしながら、

 (よしよし……この程度なら、魔法が効くようだ……)

 ルートヴァンはほくそ笑むと、息を整えながらさらに小声で呪文を唱えた。


 「ヤェツェル・ベェル、ヤッツェマク・アベェル……」

 だが、分身は発動しなかった。初等科2年生の必修魔術なのだが……。

 「マジかよ、凄いな、この島……」

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