第9章「ことう」 3-10 うまい
つまり、この惑星の植物ではなかった。
さて、腹を満たしたフューヴァは、屋根の上で夜を待つことにした。
酒が運ばれた公民館のような大きな建物に、きっとフューヴァが捕えられている。
夜になったら、救出に向かう。
一方プランタンタンは、猫が入るような狭い路地からその光景を見やって、声に出さずに肩を揺らして笑い転げ、
(ゲッヒェッシシッシッシッシシシシシシ~~~~!! さっすが、ペートリューさんでやんすうう~~~! こりゃあ、ペートリューさんは心配はいらねえでやんすね……っちゅうわけで、あっしは暗くなってから御宝を探すでやんす……! 密貿易団が来るっちゅう程の島でやんす……きっと、ものすげえ御宝があるにちげえねえでやんすううううう~~~~~~~~~~ッッシッシッシッシシッシッシッシッシ……~~~~~!!!!)
こっちはこっちで、本格の盗賊気取りで金目の物を狙おうとしていた。
さて、なんとか公民館に酒を運びこんだ2人のゲベル人は、目立たぬよう荷車を裏に止め、
「おい、持ってきたぞ!」
留守番をしていた2人も手伝い、甕を納戸に運ぶ。
「これが、島の自慢の焼酎だ」
サクバットが自慢げに云うが、もうペートリューが甕に取りつき、頑丈な縄で結ばれているはずの蓋をむしり取った。
「おい!」
ゲベル人たちが驚いてると、ペートリューが甕の口に顔をつっこむようにして匂いを嗅ぎ、
「これはああぁ……! 独特の、すっごくすっごく、すっっっごくいい匂いですうううう!! こんなお酒は、これまでで初めてですううううう!!」
本当に光を放っているかのように顔を輝かせ、昂奮してそう叫んだ。
「そ、そうか? 分かるのか?」
まんざらでもなくサクバットが半笑いとなり、仲間が咳払いしたのですぐに顔を引き締めて、
「さあ、さっさと飲んだら、魔王ストッラのことを洗いざらい話してもらおうか! 魔力を用いない魔法とは、いったいどういうことなのだ!?」
ゲベル人たちがそれにこだわるには、理由がある。なぜなら、ゲベル人も魔法を一切使わないからだ。魔法使いというものが、現在のこの島には存在しない。それでいて、まるで魔法のような道具を使い、魔法でなくば説明できないことをやっている。
例えば、この公民館というか、集会所だ。傍目には、ただの大きめの建物にすぎず、特に変わったところがあるようには見えぬ。しかし、見るものが見たら、どうやって建てたのか分からず、頭を抱えるだろう。
というのも、建物は木造でもレンガ造りでも石積みで土壁でもなく……何とも云えぬ謎の建築素材によって、一体形成で造られているのである。
つまり、3Dプリンターで造形したようなイメージだ。
その一体形成の基礎建築部に、木の外屋根や木窓、あるいは内部を仕切る木板の壁をつけ加えている構造だ。
さて、ペートリューはなんとか甕を持ち上げようと四苦八苦していたが、ゲベル人たちが、
「まさか、そのまま口をつけて飲むんじゃないだろうな」
と気づくのと、重くて持ち上げられないとペートリューが諦めるのが同時だった。
「おい、これを使え!」
サクバットが、湯吞みたいな取っ手の無い陶器のコップと、木製の柄のついた陶器の柄杓を出した。公民館備えつけの物だった。ペートリューが見たことも無いような素早さでそれを奪い取り、柄杓でうっすらと琥珀の液体を掬いとるや、薄灰色のコップに注いで水みたいに一気飲みしたのでゲベル人も仰天した。
「うまい!」
ペートリューが目をむいて叫ぶ。
「そ、そうか、うまいか。さあ、魔王ストッラの事を話してもら……」
もう、ペートリューは立て続けに5杯、飲んでいた。
「お、おいおいおい! もうやめろ! 流石に、身体に毒だぞ!!」
「平気だあああ!! これっくらいいい!!!!」
「せめて水で薄めろ!」
「酒を薄めてどうするんだアホかあああああああ!!!!!!」
「だめだ、とりあげろ!」
異変を感じたサクバットが命じ、3人のゲベル人がペートリューを押さえつけ、コップと柄杓を取りあげようとした。が、またもペートリューが一瞬だけ魔力を異常に高め、瞬間格闘魔術とも云えるものを無意識で発動。
「おわああっ!」
3人を一瞬で振りほどき、部屋の端まで投げ飛ばした。
「ゲエッ……!」
サクバットが恐怖と衝撃で凍りつき、震えだした。
(ま、まさか、こいつをあえて捕えさせて、我らを内部から揺さぶろうという魔王ストッラの罠なのではあるまいな……!)




