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第9章「ことう」 3-8 なんでもいいから酒だ

 「こいつ、わざと・・・こう答えているのなら、相当に訓練を受けた間諜だぞ」

 サクバットが、思わずつぶやいた。

 「そうは見えませんけどね」


 「もういい、殺しましょう。尋問するだけ無駄だ」

 「まあ、待て。せめて魔王ストッラを特定し、テヌトグヌ様に御教えしなくては」

 「魔王と云えど、どうせ魔法は使えないんだし、探したほうが早いですよ」


 1人のゲベル人が、腰の後ろの大型ナイフを抜いた。

 「あの~……」

 サクバットが、床に座ったままのペートリューに向き直った。


 「なんだ」

 「ストラさんは、魔力を使いませんよ」

 「なっ……!」


 ゲベル人たちが色めきだった。

 「なんだと!? いま、なんと云った!?」


 「ですから……ストラさんは最初から魔力を・・・使わない・・・・魔法・・で戦って、魔王になったんです」


 「魔力を使わず、どうやって魔法を使うんだ!?」

 「知りません」

 ペートリュー、そこで最後の水筒を飲み干し、

 「すみません……お酒、ありませんか」


 ゲベル人たちは、ストラが魔力を使わないという衝撃に続いてペートリューから出てきたとんでもない・・・・・・言葉に驚愕を通りこして息を飲んで絶句し、


 「……さ、酒だと!? 酒!? お前、それだけ飲んでおいて、まだ飲むというのか!?」


 「そんなことより、魔王ストッラの秘密をもっと話せ!! 魔力を使わないとは、どういうことなのか!?」


 「お酒をくれたら話します」

 「調子に乗るなよ、こいつ!!」

 「いいから酒よこせええええ!!!!」

 ペートリューが眼を見開いて叫び、水筒を壁に投げつけた。


 その時、この低濃度魔力下にも関わらずペートリューの潜在魔力が高まり、格闘魔術と同じ効果を一瞬だけ発揮。凄まじい力で木板の内壁に投げつけられた真鍮の水筒が、これもまた凄まじい音をたてて壁をぶち破って隣の部屋に転がった。


 しかも真鍮の水筒が、思い切りひしゃげている。

 「……!! !? ……」


 4人のゲベル人たちは度肝を抜かれ、壁の穴を凝視した。先ほど大型ナイフを抜いた1人はサッとナイフを後ろ手に隠し、震える手で鞘に戻した。


 「酒」

 ペートリューの声と目が、完全に据わってた。

 「え……」

 「酒だ」


 「さ、酒か……待て、待っていろ、酒なら何でもいいのか? この島に、ブドウ酒は無いのだ……」


 「なんでもいいから酒だ」

 「わかった、わかったから……その代わり、飲んだら話せよ!」

 「早くしろ」


 「いそげ!」

 サクバットに云われ、2人が走った。しかし、すぐに戻ってきて、


 「どれぐらい、もってくりゃいいんだ?」

 仕方なくサクバット、


 「おい、この島にあるのはブドウ酒ではなく、甕で寝かせた焼酎だ、どれほど飲むというのだ?」


 「焼酎だあ?」

 「そうだ、みな、水で薄めるか、小さな容器でそのまま飲んでいる」

 「そのまま飲むに決まってるだろ。いいか、甕ごと持ってこい、甕ごとだ」


 「おい、マジかよ……こいつ、化け物か」

 「カネなら払う……」


 云うや、ペートリューは懐をまさぐり、無造作につかんだウルゲリア金貨……いや、一部にはヴィヒヴァルンの金貨も交じっている……を、床にばらまいた。


 「えっ、きっ、金貨か!?」

 驚いて黄金を見やり、サクバット、

 「ど、どこの金だ!?」


 「どこでもいい、サクバットさん、金貨だ! 金貨だぞ、本物か?」

 1人が目の色を変え、さっそく拾い上げた。

 「本物だ! 本物だぞ!」


 「酒持ってこい」

 「よ、よし! 待ってろ!」

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