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第9章「ことう」 3-6 ペートリューの監禁

 なお、フューヴァは大型ナイフを抜いて牽制しながら取りすがるゲベル人達を巧みにかわし、プランタンタンが逃げこんだ細い路地に入ろうとしたが細すぎて入れず、その細さを利用して壁を伝って屋根に逃げていた。既に壊滅したフランベルツの歓楽都市ギュムンデのさらに下町では、この程度のことは子供のころから朝飯前だ。


 「あの酔っ払いは、どうにもならねえな……!」


 屋根に身をひそめ、縄で縛られて連行されるペートリューを見ながら、フューヴァがいいだけ舌を打った。

 


 役所……というより公民館のような建物に連行されたペートリュー、物置か納戸のような狭い部屋に入れられて監禁されたが、緊張とパニックに加えて酒の禁断症状が出て、ずっとブルブル震えていた。


 いっぽう、ペートリューの所持品を検査した何人かのゲベル人も、酒の入った水筒を大きくて頑丈な鞄に計12本も持っていた以外は何も持っていなかったので、訳が分からなかった。


 「酒の商人か?」

 とも思ったが、どうも自分で飲むものらしいと判断し、呆れかえった。

 「尋問するか?」


 ルートヴァンと話していた初老の男がそう云うが、部下の若いのが、

 「尋問できるんですか?」

 「最近使ってないが、翻訳機・・・があっただろう」


 「いや、そうではなく……様子がおかしいですよ、あいつ。ずっと震えています」


 「確かに……」


 初老の男性……村の副村長だが……は、部屋に入れる前からペートリューが震えていたのを、恐怖によるものだと思っていた。しかし、どうもそれだけではないと気づき始めた。


 「魔王様に差し出しましょう」


 「もちろん、最後はそうするが……あいつだけ差し出しても、叱責されるだけだ。逃げた連中を捕らえなくては」


 つまり、どうにかしてペートリューから何かしらの情報を得なくては、ゲベル人もどうにもならない。


 「翻訳機を」

 「どこにしまってありましたっけ……」

 「私は知らないぞ、もう何年も使ってないからな」


 一同が、その「翻訳機」がペートリューを監禁している納戸に仕舞いこんでいると思い出したのは、それから30分ぐらい後だった。


 「灯台もと暗しだな……」

 シブイ顔で、副村長が納戸の鍵を開ける。

 とたん、床にひっくり返って痙攣しているペートリューが目に飛びこんだ。


 「……おい、しっかりしろ!! なんだ、どうしたんだ!!」

 驚いて、ゲベル人たちがペートリューを取り囲んだ。


 「医者を連れてこい!」


 「面倒くさい、サクバットさん、殺しましょうよ。逃げた連中を捕まえるほうが先です」


 「それは、セントバック達にまかせてある。こいつを尋問するんだ」

 「何も知ってませんよ、こんなやつ」

 その時、縄で縛られたまま虫の息のペートリューがなんとか顔をあげ、


 「おさ……お酒……お酒……さけっ……えひっ……ックグ、さあああけええええ……!!」


 ゾンビみたいな顔で、うめいた。青白いのを通り越して顔色は真っ白くなり、脂汗がヒドイ。何を云っているのか分からないゲベル人たちが、眉をひそめて、そんなペートリューを見下ろした。


 「ほっといても死にますぜ、こいつ……」

 「我らの知らない、疫病なんじゃないでしょうね!?」

 「む……」


 壮年のゲベル人のその一言に、みな一斉にペートリューから離れた。

 その時、まるで空気を読んでいない若いゲベル人が、

 「翻訳機がありましたよ」


 納屋の隅から、埃まみれの木箱を出してきた。

 「もういい、そんなもの……どうせ壊れている」

 「こいつは、もう殺すんだ」

 サクバット副村長と取り巻きがそう云ったが、


 「せっかくですから……テヌトグヌ様の防壁を乗りこえてきたやつらですよ。新しい魔王のことも、何か聞き出さないと」


 正論を云われ、サクバットが顔をしかめつつも、

 「じゃあ、お前が翻訳機をつけろ」

 「わかりました」


 若者は木箱を開け、中から骨伝導イヤホンのような道具を取り出した。

 「あまり出力を上げるなよ、魔力が薄いんだからな」

 「分かってますよ」

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