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第9章「ことう」 3-2 島が魔力を吸っている

 ルートヴァン、甲板の片隅でいつものポーズ……腕を組んで、半眼のまま遠くを見つめているストラをチラリと見たが、


 (なんにせよ、聖下にはあまり関係ないか……魔力を・・・使わない・・・・のだからな)


 小さく嘆息し、


 「幸い、完全に止まっているわけでもないみたいだ。ここは、ちょっと時間がかかるが、このままゆっくり行こうじゃないか」


 「ゆっくりねえ……」

 フューヴァが、目を細めて島を見やる。

 「日が暮れるどころか、明日になるんじゃねえの?」


 「でも、どうしようもないもの。スーちゃんに、押してもらうわけにもいかないだろ?」

 「ちげえねえ」


 フューヴァは、そのまま部屋に引っこんだ。プランタンタンもすることがなく、フューヴァに続く。ルートヴァンはチラッとストラを見たが、先ほどから彫像のように微動だにしていないので、自分も客室に下りようとした。


 が、珍しくペートリューが水筒を手にしたまま、酒も飲まずに島を凝視しているのに気づいて、


 「ぺーちゃん、どうしたんだい? まだ何か、気になることが?」

 「えっ? い、いいえ、きっと気のせいです……」

 「気のせいでもいいさ。教えてくれないか」


 もはや、ペートリューの感覚を無視するわけにはゆかぬ。魔術師としての腕前は論外オブ論外にして下下下の下かもしれないが、独特にして鋭敏な魔法的感性があるのは、もはや疑いようがない。


 「島が・・魔力を・・・吸っている・・・・・ような気がして……」

 ストラが、視線をペートリューに移した。


 ストラも、ゲベロ島を中心とする当該海域の平均魔力子マギコリノ量が当該世界の平均と比べて1/50ほどなのを感知していた。が、原因が分からず、詳細探査中だった。しかし魔力子マギコリノそのものの探査法……いや、魔力子マギコリノの法則式を含めた魔力子マギコリノ物理学とでも云うべきものがまだ確立していないため、なんともままならないでいたのだ。


 「島が魔力を……吸っているだって?」

 ルートヴァンはどういうことだ? と、思ったが、再度慎重に魔力の流れを探る。

 (ははあ……なんと、これは凄い。成程な……)


 正確には、島というより「島の地下」がここいら一帯の自然魔力を断続的に吸収し続けているのだ。その「島の地下」が何なのか、はたまた島の地下に何かあるのか想像もできなかったが、魔王がらみの「何か」であることに違いなかった。


 ラペオン号は島に近づき、その吸収範囲内に突入したのだ。

 そして、ゲベラーエルフ達は、ギリギリ範囲外に住んでいたのだろう。


 (しかし、僕ですらかなり詳細に探らないと分からないような魔力の流れを、感覚で掴むとは……ペーちゃんは、鍛えたら相当の魔術師になる可能性が……)


 ルートヴァンがペートリューを見たが、ペートリューはもう我関せずで水筒のワインをがぶ飲みしていた。


 (可能性が微塵も無いから、ペーちゃんはペーちゃんなんだろうな)

 苦笑して、部屋に戻った。明日、上陸してからの作戦を練らなくては。

 


 そして、翌日である……。


 半日以上をかけてラペオン号は島の西端を回りこみ、小さな入り江の沖に到着した。


 その姿はゲベル人の集落からも確認でき、まるで幽霊船のような外観に人々は驚いて、ささやかな漁港に集まってざわめいていた。


 海水をくみ上げて歯を磨いていたフューヴァ達からも、その様子が確認できた。

 「人が集まってるぜ」

 船縁から口をすすいでいた水を吐き、フューヴァが云う。


 「ルーテルの旦那、このままあの小せえ港に入るんでやんすか?」

 「入れるのかよ?」

 「そうだねえ」


 先に歯を磨いて、遠眼鏡で観察していたルートヴァンが、そうつぶやく。2人の心配ももっともだったし、そもそも遠浅になっていて水深がかなり浅そうだった。


 「このまま進んだら、座礁しそうだよ。ひとまず、ここに停泊だ」


 ルートヴァンが魔術を思考行使すると、かなりゆっくり進んでいたラペオン号がその動きを止め、慣性に任せてゆるやかに停止を始めた。そしてアンカーを下ろすべく、巻き上げ機のロックを魔術で外そうとして、


 「あれ、動かないぞ……」

 ルートヴァンが、ため息をついた。

 「この程度も動かせないのか」


 魔力量が、相当に低下している。ルートヴァンのレベルでは、思考どころか見るだけで動かせそうな念力魔術ですら、発動に時間がかかるか、パワー不足で動かない。


 「手動でやるしかないっすね。どれ……」

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