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第9章「ことう」 2-9 ロンボーン

 すなわち、大昔に空から巨大な宇宙船が落ちてきた、というのである。

 (だけど、それならどうして、探査不能なのか……?)

 これも、考えられることは1つだった。


 (完全な未知文明……当該世界と同様、まったくの別宇宙の科学による宇宙船と推定される。その宇宙船の未知機構により、探査を妨害している可能性が高い。ベルンステルン級大型恒星間航行次元デヴァイスに酷似しているも、不一致と思われる)


 ルートヴァンの質問は続く。

 「まあ、大船はいい。で、北海の魔王と、その大船が何か関係があるのか?」


 「はい。大船が降って来てより1000年以上たったころ……ゲベル人より、天才魔術師が現れました。名をロンボーンといい、島を出て、世界を放浪。当時の魔術を極めたそうです。そして、島を出てより1000年の後……ロンボーン様は、世界を救ったという魔法戦士の仲間となり……その魔法戦士様の大業を見届けた後、島へ戻ってまいりました。その後、いっさい御姿を現しませておりませんが……いつのころからか、魔族であるテヌトグヌ様がロンボーン様の総代理となって、我らを含めゲベロ島の全てを支配なさっているのです」


 ルートヴァン、感情を読まれぬように両眼を細め、ボロートゥスバーを見やる。

 「世界を救った魔法戦士」は、タケマ=ミヅカに他ならないからだ。

 だが、タケマ=ミヅカからは、何も聴いていない。


 (北海の魔王は、大魔神メシャルナー様の仲間だったのか……!? それで、タケマ=ミヅカ様が漆黒のシンバルベリルと三重合魔魂テルミルを果たし、大魔神メシャルナー化した・・・のち、自身も魔王化したのか?)


 そう考え、


 「で、北海の魔王……ロンボーンは、長年、姿を見せず何をやっている? 本当に、今も存在しているのか? まさか、その魔族がロンボーンの正体か、あるいは、既に、ロンボーンはテヌトグヌとやらに殺されているのでは?」


 ボロートゥスバーも、その質問にきゅっ、と目を細めた。ゲベラー海洋エルフの酋長として、絶対に心にも思ってはいけなかったことをズバリ、ルートヴァンに指摘され、さらに後ろめたさがある証拠だ。内心、ボロートゥスバーもそう考えている、あるいは考えたことがあるのだ。


 「……正直、分かりません。我らエルフは、今回のような緊急事態を除き……それほど、魔王様やテヌトグヌ様と接触しないので。ゲベル人に聞いてみてください」


 「ゲベル人だと? 島に住んでいる連中か? 大船に乗っていた連中の子孫とかいう……」


 「いかさま。ロンボーン様と同族です。きっと、我らより魔王様と密接に関係しているでしょう。あるいは、貴方様のおっしゃる通り……テヌトグヌ様が、既に魔王様なのかもしれません。事実、孤島の魔王と名乗っております」


 「異次元魔王様と同じく、そのテヌトグヌとやらの魔族がロンボーンを倒して、魔王号を受け継いでいる可能性があるのか」


 「いかさま」


 (ふうん……なるほど。ま……しかし、それならそれで、かまわんか。僕たちのすることに、変わりはないんだからな……)


 ルートヴァンはそう判断して、既に目線をボロートゥスバーから外し、腕組みのまま遠く海上を見つめているストラのほうを向いた。


 「聖下、かかる仕儀にて御座りまする。我らといたしましては……」

 「いいよ」

 「畏まって候!」


 次の行動が決まった。

 「さあ、プランちゃん! フューちゃん! ペー……ちゃんは、いないんだな」


 云われて、プランタンタンもフューヴァも、ずっとペートリューがいないことに気づいた。


 が、何とも思わない。どうせ、部屋で呑んだくれている。そして、それは正解だった。ペートリューは、ランヴァールが暴走を始める前から、部屋で酔いつぶれていた。


 「……まあいいや、ゲベロ島に上陸だ。今まで、その魔王の代理とかいう魔族はエセ魔王だと思ってたけど、もしかしたら本当の魔王かもしれない」


 「どっちにしろ、ぶっつぶすってことでしょ?」

 フューヴァが左の掌を右拳で打ち、ニヤッと笑みを浮かべた。


 「そういうこと。さて、僕たちはゲベロ島に上陸する。あんたたちは放免となる。好きにしろ。だが、島を離れることを御勧めする。異次元魔王様と、ロンボーンにしろ、テヌトグヌにしろ、魔王同士の戦いは激しいぞ……。ゲベロ島が、微塵も無くなるかもしれんほどだ」


 「…………!」


 ボロートゥスバーと女性エルフ2人が、声も無く眉をひそめてルートヴァンを見つめた。


 「事実、フィーデ山において火の魔王レミンハウエルと異次元魔王様との戦いでは、フィーデ山に住まってレミンハウエルに仕えていたフィーデン洞窟エルフという連中が、戦いにまきこまれて族滅したわ」


 「左様で……」

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