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第9章「ことう」 2-5 暴走する大魔獣

 「ボロートゥスバー様、何か術を飛ばしたようですぞ!」

 「何の術……」

 と、凄まじい規模の魔力の逆流がエルフたちを襲った。


 ランヴァールから、魔力が逆流しているのだ。

 「何だ、何の術だ!!」


 「やつめ、いったい、何を……!」

 「切れ、切れ!」

 エルフたちは、いったん、魔術を「切る」必要に迫られた。



 ランヴァールは混乱し、海底で暴れに暴れ始めた。

 ラペオン号も大いに揺れ、甲羅からずり落ちる。

 「わああ、なん、なんでやん、やん、やんす、やんすか!!」


 そこらの物にしがみつき、プランタンタンが叫んだ。フューチャーとペートリューは、叫ぶ余裕もない。まるで大地震だ。


 ルートヴァンが、ラペオン号をボールめいて魔力で包み、浮遊魔術で宙に浮かせた。大魔獣の魔力ドームの中で、浮き上がっているかっこうとなる。まるで水に浮いているように、いきなり船が水平を取り戻したので、逆にプランタンタンたちはひっくり返って眼を回した。


 この隙に大魔獣の支配を奪おうとしたルートヴァン、苦笑しながら、

 (しまった、やりすぎた・・・・・か……僕の支配も受けつけないぞ)

 ランヴァールは、完全に暴走を始めた。


 海底から浮かび上がると凄い速度で泳ぎだし、猛烈な勢いで海底火山の稜線を上がり始めた。


 魔力ドームの内側で空中浮遊状態のラペオン号は、急にランヴァールが動き出したので取り残され、ドーム壁に押しつけられた。


 そのまま、ラペオン号から見て周囲の景色が目まぐるしく変わる。周囲が急激に明るくなり、水深が浅くなった。やがて巨大な潜水艦が緊急浮上したように、ランヴァールは海面から飛び出て豪快に空中に舞った。


 縦も幅もそれぞれ数百メートルもある、小島のような大質量物体が勢いよく海中から数十メートルも飛び出て、そのまま着水したのであるから、津波のように周囲に大波が立った。


 ドーム内のラペオン号は、いかに魔力のバリアに護られているとはいえボールのようにドーム内を跳ね回って、船内はメチャクチャになった。


 ランヴァールはそして、凄まじい速度で海上を疾走しはじめた。


 が、暴走しているようで、一直線にとある場所を目指していることに、ルートヴァンは気づいた。


 (さては、いまさっきまで繋がっていた海エルフどもの魔力を辿っているな……?)


 それを実証するかのように、ランヴァールは再び潜水する。


 とはいえ、既に海底巨大カルデラの内部に入っており、水深は25メートルほどだ。ランヴァールの厚さが10メートルほどであるから、潜水と云っても至極浅い。その分、凄まじい水流と波が発生し、海底の土砂も豪快かつ大量に巻きあげられた。水流と土砂の航行跡を残し、一直線に大魔獣が向かったのは……。


 そう。

 ゲベラー海洋エルフの集落である。


 大魔力の接近以前に、天変地異もかくやという水圧・水流の乱れに、エルフたちはパニックとなった。


 「なにか、巨大なものが突撃してくる!!」

 「ボロートゥスバー様を呼べ、ボロートゥスバー様はどこだ!?」

 「儀式の館に……!!」


 ランヴァールの身体は皿のような形状をし、巨体とは云え、その巨大さの割に推進によって発生する波は少ない。が、直接衝突するのでは、話は異なる。魔力で固められた海水による建築物……柔軟さに長けるが、強度はそうでもない。


 儀式の館では、ボロートゥスバーを含め、みな恐慌状態だ。

 「テヌトグヌ様!! ロンボーン様!! 御助けくだされ!!!!」

 「魔王様ああああ!!」


 もはや、叫び、祈るほかはない。

 そして、ゲベラーエルフの集落にランヴァールが突っこむ寸前。

 凄まじい魔力が大魔獣を打ち据え、一撃でコントロールを奪った。


 テヌトグヌか、はては魔王ロンボーンの仕業だろう。

 ランヴァールは海底集落の上を素通りし、凄まじい寄せ波だけが集落を襲った。


 しかし、それがもう、天変地異級の大津波だ。

 海底の土砂ごと、集落のほぼ全てが水圧で持ちあがった。


 いかに、海水を魔力で固める術をもってして造った建物だとしても、基礎を打つという建築物の概念が無く、横波に弱い。それはゲベラーエルフたちも認識しており、対策として魔術的な機構により集落全体を護っていたが、一般的な台風程度の低気圧ほどしか想定していなかった。


 そこに、大地震で発生した巨大津波にも匹敵する勢いの海流が直撃した。


 海中集落からは長煙突めいた空気孔が海面まで何十本も伸びていたが、それごと根こそぎ集落が巻き上げられる。


 もちろん、住んでいる2000人ほどのエルフたちごと、だ。

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