第9章「ことう」 2-2 魔王退治の旅の目的
ルートヴァンの読み通り、ストラは三次元広域探査でゲベロ島及び周辺約30キロメートル地形表面と地下を探査している。
絶海の孤島であるゲベロ島は火山島で、海底火山が巨大なコニーデを形成しており、海底山脈では無い。一帯の水深は平均で1500メートルあり、ゲベロ島はその海底火山の山頂であるが、地形的にはカルデラの円周の一部だった。従って、やや細長く、緩く弧を描いている。太古の昔、コニーデ海底火山の爆発的な噴火で巨大カルデラとなり、そのカルデラの円周部分の一部が島となって残っているのだ。
カルデラの内側の平均水深は25メートルで非常に浅く、自然現象なのか、何かしらの魔術的な機構なのかは不明だが、気候的に北の海にしては非常に温暖なため、漁場として大変に良いものがあった。クジラや海生哺乳類に近い海獣も多く、ゲベル人やゲベラーエルフの獲物になっている。
ストラが気になったのは、ゲベロ島のマグマ溜まりを探査しようと火山の地下を探査していたのだが、探査波がまったく返ってこないことだった。
すなわち、
(探査不能領域を確認……)
この現象は、ストラがこの世界で再起動してから3度目であった。
1度目は、フランベルツ地方伯領歓楽都市ギュムンデの地下空間。
2度目は、この大魔獣ランヴァールを偽装していた溶岩台地。
そして、ゲベロ島。
前の2度に共通しているのは、魔力子効果=魔術による探査妨害だ。
それを鑑みると、今回のゲベロ島地下空間探査不能現象も、魔術により隠蔽の可能性は高い。
しかし……。
(それにしては、規模が大きい)
ゲベロ島は南北約30キロ、東西約70キロで、東西に細長く、ゆるく弧を描いている。ほぼ中央部に標高500メートル程の山があり、いまも噴煙を上げる火山である。東部は原生林と岩山に覆われてほとんど無人で、西部に湾があり人口3500人ほどの村落がある。
さらに、海中のカルデラ内、島から1キロほど離れた場所に、ゲベラーエルフの海中集落があった。海水を固める(?)魔術により、大きなものは体育館程、小さなものは数人が暮らす家程度の海中建築物を造っている。空気は、海面までダクトを繋げて、魔法で換気を行っている。もちろん、そのダクトも海水を加工している。
ストラは当初、その火山に繋がる地下マグマだまりを探査しようとした。
すると、地下数十メートルの浅いところに、長さ約2.5キロ、幅約300メートルの細長い部分がすっぽりと「探査不能」だった。探査不能なので、そこだけ空間状になって見える。まさに、ギュムンデの地下空間やこのランヴァールの生きた動く島とまったく同じ構造だ。
(ということは、細長い巨大棒状の地下空間か、地下埋没物体と推測……)
魔力の流れは、魔力子そのものの測定法が確立できておらず、必然、未だ詳細に測定はできないでいたが、大雑把なものは分かるようになっていた。
全周囲からの大量の魔力の流れが、探査不能箇所に集中している。
(当該箇所が、一帯より膨大な量の魔力子を長期間に渡り吸収していると推測。おそらく、最低でも千年単位)
それは、魔族がどうのというレベルではなかった。まさに、ゴルダーイの消滅によりウルゲリアにあふれ出てきた大魔力に近い。その規模が一度に噴出したため、ウルゲリアは超絶高濃度魔力に呑まれたが、ゲベロ島では通常濃度魔力を長時間……数千年に渡り集めていると思われた。
と、いうことは。
(北海の魔王が、あの探査不能箇所にいると推測される)
そして、その吸収した超絶的に大量の魔力を使用し、「何かをやっている」のだと思われた。
その「何か」は、まったく想像がつかない。
しかも、それにしては空間規模が大きいのだが……それも含めて調査、記録し、かつ、北海の魔王を排除しなくてはならない。そうすることで、これまでのような大規模エネルギー回復が期待できるからである。
ストラにとって、「魔王退治の旅」の目的は、その一点に尽きる。
ランヴァールはどんどん潜水の深度を深め、数百メートルも潜ると光が届かなくなり、ドームの内側も真っ暗になった。小島ほどの大きさがあるが、巨大海底火山の稜線に比べれば、木の葉か小石のようだった。海底火山は、高さこそ1500メートルほどだが、その海底カルデラの規模は直径80キロに及ぶ。火山自体も、かつては2000メートルはあったと推察される巨大火山だった。それが、山体崩壊に匹敵する超巨大噴火か、他の別の要因で、ゲベロ島を残し海上部分のほとんどがぶっ飛んだのだ。




