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第9章「ことう」 2-1 潜水するランヴァール

 プランタンタンの悲鳴を、ゲベラーエルフどもが嘲笑。

 「こいつ、エルフのくせに泳げないんだってよ!」


 「うるせえでやんす! あっしらは、ゲーデル山脈の上に住んでるんでやんす!」


 プランタンタンが涙目でそう返している間にも、一気に海水が上がってきた。

 


 2


 「じゃあな! 永劫、海底に閉じこめられるのを思えば、今この場で溺れ死ぬのを勧めるぞ!」


 云うが、エルフたちは素早く水の潜水艦にバシャバシャと飛びこみ・・・・、船体表面に波紋ができる。そのまま、上がってくる海水に交じって、消えてしまった。


 波が迫り、ルートヴァンがプランタンタンごと浮遊する。


 ホッとしたプランタンタンが下を見つめたが、ランヴァールがどんどん海中へ没してゆき、ラペオン号も再び波間に浮かぶ……と思いきや、一定のところで、またもランヴァールの魔力が働き、ドーム状に海水を押し退けはじめた。


 ルートヴァンとプランタンタンが天を見上げ、壮大な海中ドームと化した甲羅島を感嘆と感心を持って見やった。


 「こいつは、スゲエでやんす。海の中に、入っちめえやんした」


 「フン……元より、ランヴァールの力だよ。ゲベラーエルフどもの術じゃない。さて……」


 まずは、ストラに報告した後、状況の推移を見守るか、と続け、船に戻ったルートヴァンはストラの部屋を訪れた。プランタンタンは、フューヴァとペートリューに説明するため、傾いている通路を器用に走って部屋へ戻った。


 部屋では、2人ともうまく木の板等を組み合わせて作っている寝床に転がっており、先日ストラがさばいた怪魚の身を干したものをかじっていた。


 「てえへんでやんすよ、2人とも!」

 「こんな海の果てまで来て、いまさらてーへん・・・・もなにもあるかよ」


 フューヴァがプランタンタンを見もせずに、つぶやいた。

 「意外とうめえな、これ。なあ、ペートリュー」


 「白に合うのはもちろん、赤でも行けますよ~~、でも~、マンシューアルの焼酎が凄く合います~~」


 その言葉に、プランタンタンとフューヴァが絶句。やや間があって、

 「エッッ、お前、あのくっっせえ酒を、まだ持ってたのかよ!?」

 「はいー~、ストラさんの魔法の倉庫に置いてます~~」


 「執念でやんす」

 プランタンタン、流石に引いた。

 「それはそうと、2人とも、てえへんでやんす!」


 「だから、いまさらなんなんだよ」

 「この甲羅の島が、海の中に沈んじめえやんした!」

 「なに云ってんの、おまえ」


 フューヴァが初めて身体を起こし、半笑いでほぼ横倒しの入り口に立つプランタンタンを見やった。


 「沈んだんなら、なんで水が来ねえんだよ?」

 「それは、知らねえでやんす」


 「でも、確かに、魔力の動きがすごいですよ、あの、天までそびえる魔力の壁を突き抜けたときみたいに……」


 「魔力の壁? なんだ、そりゃあ」


 無理もないが、フューヴァはランヴァールが結界を抜けたのも認識していなかった。


 船内は、昼の間は各所にストラの照明球が浮遊していて明るい。


 だが、それでも空間全体が日の暮れたように暗くなってきたのが分かった。


 「……あれっ、もう夜だっけ?」

 フューヴァが、不安げな顔となる。

 「だから、海の底に沈んでるんでやんすってば」


 フューヴァが立ち上がり、ほぼ横倒しに傾いている通路や階段をなんとか歩いて、甲板に向かう。甲板はとても立っていられれないほど傾いてるため、通路から続く階段から首を出して、外だけ確認した。


 「うわっ」


 甲羅の上に大きなドーム状空間ができて、その向こうはフューヴァが見ても、完全に水没しているのが分かった。



 ルートヴァンがストラの部屋に向かうと、ストラはいつも通り傾いたベッドの上に胡坐あぐらで座り、両手を両膝の上に軽く置いて、重力制御により自身も傾いたまま座禅めいて半眼のまま微動だにしていなかった。


 「聖下、畏れながら御報告奉りまする。既に御気づきのこととと存じますが……」


 そこで、ルートヴァンはストラが深く何かを探査していることに気づき、水平に保っている魔力の床の上で深く礼をすると、自分の部屋に引っこんだ。


 (さて……恐らく、聖下はもうゲベロ島を探っておられる……。フフ、エルフどもの魂胆など、眼中にないのだ……必然、僕がエルフどもの相手をすることになるが……)


 部屋で空中に浮遊したまま、楽し気に口元をゆがめた。

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