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第9章「ことう」 1-5 難破船

 「うおお……!」


 ルートヴァンが首が痛くなるくらい見上げて、その反応を逐一観察した。が、一見しただけではよく分からなかった。


 厚さ10メートルの魔力の壁というか逆流する魔力の滝を、ランヴァールは何事も無くすり抜け、そのまま海上を突き進んだ。そうして、次々にそびえる7重の魔力による滝の壁を全て突破した。


 とたん、低気圧がウソのように緩み、吹き返しの風とそれによる波があるものの、北の海の抜けるような晴天も見えた。魔力の複雑な流れも無くなり、


 (ふうむ……結界を抜けた、ということか……)

 ルートヴァンが詳細に空や会場を観察した。しかも、

 (なんだ……? 妙に風が生ぬるい……いや、暖かい・・・ぞ?)


 そう感じ、暴風雨を防いでいたバリアの魔術を解除すると、吹きつける風が初夏のように爽やかだった。いきなり気温が上昇している。


 それは、ストラも観測していた。


 (確かに、この海域一帯が巨大な暖流の不自然な大蛇行にぶつかっているけれど……それだけで、この極端な気候の局地的変動はあり得ない。魔力子マギコリノの影響であるものの、いま通り抜けた異常停滞低気圧及び多重魔力壁ほどではない。もっと大規模かつ緩やかな、広範囲低レベル気象兵器規模の気候コントロールと推測)


 と……。

 「おっ」

 ルートヴァンが、波間に半分沈んで漂流する難破船を発見した。

 ほぼ同時に、ストラも広域三次元探査でとらえる。


 「うっひょーーー~~~!! 沈みかけた、でっけえフネでやんす! ルーテルの旦那、ルーテルの旦那! なにか御宝様があるかもしれねえでやんす!!」


 ルートヴァンがビックリして声のほうを振り返ると、いつの間にか外へ出てきていたプランタンタンが、スルスルと猿のように傾斜のきつい甲板を上り、船縁ふなべりに立って額に掌を当てて遠くを見ながら、ピョンピョンと跳びはねている。


 「おい、プランちゃん、危ない、滑るよ!」


 云うが、プランタンタンが足を滑らせて舷側に落ちた。が、アッと思ったルートヴァンが救出の魔法を唱える前にもう自分で舷側に垂れ下がるロープを掴み、するすると昇ってきた。


 安堵しつつ、ルートヴァン、

 「気をつけないと、だめじゃないか」


 「ヘッヘッヘ、御心配を御かけしやあして申し訳もごぜえやせん、ゲッヒッシッシッシシッシ……」


 「どこの船だ?」

 まだ宙に浮いたまま、ルートヴァンが遠眼鏡で観察した。


 が、沈みかけた船体だけでは、よく分からなかった。

 (まだ、真新しい……フィロガリの船か……?)


 バ=ズー=ドロゥが、自称魔王のテヌトグヌとやらの命令でフィロガリやネラベルの外洋交易船を襲撃していたので、それかとも思えた。


 (に、しては、こんな場所まで流れてくるものか?)

 興味はあったが、ルートヴァンは無視することにした。

 「プランちゃん、きっと貨物船だよ。御宝なんかないさ」


 「ええええええええ~~~~~~!! そおおおんなああああああ~~~~~!! 探せばきっと何かあるでやんすうううううう」


 「いいから、先を急ごう」


 プランタンタンが難破船めがけて海に飛びこもうという勢いだったので、眉をひそめてルートヴァンがそれを止める。


 だが、

 「微かだけど、生命反応を確認。かろうじて生きている生存者が、1名います」


 これもいつのまにか外に出てきていて、ほとんど横倒しの船縁に立っていたストラが、ぶっきらぼうにそう云い放った。


 ルートヴァンが驚いて、ストラを見やってから船を再び遠眼鏡で見た。

 「生存者ですか!? まさか、船内に!?」


 「当該世界人類ながら、私にとって未確認人種です。何か情報を得るのであれば、救出を推奨します」


 「御意!」

 ルートヴァンがそのまま飛翔魔術で、難破船へ向かった。

 「あっ! あっしも行くでやんす!!」


 いきなりプランタンタンが船縁ふなべりからカエルみたいにジャンプし、ルートヴァンの魔術師ローブにしがみついた。


 また驚いてルートヴァン、

 「ちょ、ちょっと、プランちゃん!」

 「あっしも行くでやんす! 御宝様を探すでやんす!」

 「ちょっと、破けるから!」


 ルートヴァン、嘆息交じりにプランタンタンにも魔術をかけ、2人で難破船めがけて海上を飛んだ。

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