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第8章「うなばら」 6-16 ゲベロ島へ

 王都派の教えでは、棄教は地獄行きである。神殿内の立場によっては、死刑も適用される。


 やもすればドゥレンコルも共にガフ=シュ=イン藩王国に行こうと提案しようとしていたホーランコルは、黙ってその言葉を飲みこんだ。


 「ではホーランコルよ、異次元魔王聖下の名により、貴様を正式に我が配下とし、キレットとネルベェーンの両魔獣使いの護衛及びガフ=シュ=イン藩王国の国情探索を命ずる。フィロガリの船会社に預けてある報酬の他に、これを受け取るがいい」


 そう云ってルートヴァン、黙ってストラが差し出した革袋をうやうやしく受け取り、そのままホーランコルへ渡した。ずっしりと重みがホーランコルの手に伝わり、中を見ずともその価値を知ることができた。


 ホーランコルが両手でその革袋を押し頂き、ストラへ深く礼をしてから腰のベルトにしっかりと結わえつけた。


 「さらに、僕からはこいつを授けよう」


 ルートヴァンが左手を振ると、魔術により空中から剣が現れた。ミドルサイズの、片手剣だ。見た目は地味だが、とんでもない魔力を秘めているのが分かった。魔法剣である。


 「我がヴィヒヴァルン王家に伝わる、伝説の宝剣だ」

 などと云うが、ヴィヒヴァルンの宝物ほうもつとしては、中の下といったところだった。


 それでも、攻撃力+80、対魔効果は+160にも及ぶ、そこらの勇者ですら手にするのは難しいSレア装備であることに違いは無かった。


 「今、貴様が使っている剣の、数倍の威力はあるだろう」

 「有難き幸せ……!」

 両手で掲げながら受け取り、ホーランコルが深々と頭を下げる。

 それには流石にドゥレンコルも気になって、横目でチラ見した。


 「見事、使いこなして見せよ」

 「御期待に沿えるよう、全力を尽くします!」

 「前の剣は、適当に売り払え」

 「ハッ」


 キレット、ネルベェーンとホーランコルが魔獣に乗り、他の者達もそれぞれ残りの魔獣におっかなびっくり跨った。


 キレットが無言で手を上げると、魔獣どもが一斉に舞いあがり、ランヴァールの真上を三周すると、一直線にフィロガリ方面に向けて飛び去った。


 それを見送って、フューヴァが、

 「で、アタシらはどうすんだ? ルーテルさんよ」

 「決まってるじゃないか、このままゲベロ島に向かうよ」


 「その島まで、何日くらいかかるんでやんす?」

 「それは、知らないよ。行ってみないと」

 「進行速度にもよるけど、推定で約10日」


 ストラが、ぶっきらぼうに云い放った。10日というのは、テトラパウケナティス構造体分離方式により軌道上に浮かべてある疑似偵察衛星で把握した、極小停滞低気圧までの距離から推測した数字だ。


 「とおか!? とおかも、こんな吹きっ曝しの場所で過ごすんでやんすか!?」


 プランタンタンが、そう叫んで薄緑色の眼を丸くした。


 「まあまあ、生活物資や食料は船にあるんだから、船で暮らしていればいいじゃないか」


 プランタンタン達が、甲羅の地面の上で横倒しのラペオン号を見やった。

 「水甕みずがめは、きっとぜんぶひっくり返ってるでやんす」

 「樽に入った水もあったはずだぜ、探してみよう」


 「寝床はどうするんでやんす? あんなに傾いて」

 「いままで地面で寝てたんだから、適当に寝れるところで寝りゃあいいだろ」

 「ちげえねえでやんす」


 フューヴァとプランタンタンが風に髪をなびかせながらチンタラ歩いて船へ向かい、ペートリューもそれに続いた。


 3人を見送ってルートヴァン、腕を組んではるか遠くの水平線を見つめているストラへ、礼をして、


 「では聖下、この大魔獣めに、巣へ戻るよう指令いたします」

 「いいよ」


 ルートヴァン、魔術師ローブの下の帯に手挟んだ「海魔の杯」に魔力を満たす。小さな杯は魔力の流れをこの巨大魔獣の魔力中枢と直結させ、ルートヴァンの意のままにするのだ。


 もちろん、シンバルベリルクラスの膨大な魔力が必要であるのは、云うまでも無い。


 戦闘に使用する機会が無かったが、バ=ズー=ドロゥは、濃いレモン色のシンバルベリルを体内に有していた。


 ランヴァールがその巨大な鰭を動かし、強力に波をかき分け始めた。

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