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第8章「うなばら」 6-12 攻防、ルートヴァンとバ=ズー=ドロゥ

 バ=ズー=ドロゥにしてみれば、自分の左足が勝手に動いてぶっ飛んだように感じた。


 バ=ズー=ドロゥがゴロゴロと岩場に転がり、ルートヴァン、追い打ちをかけようと走り寄る。そのルートヴァンめがけ、起き上がりざまにバ=ズー=ドロゥが額の辺りから魔力の塊を直接飛ばした。


 咄嗟に、ルートヴァンがその魔力を杖で撃ち飛ばした。野球ならホームランとばかりに、魔力の球が飛んで行く。


 魔力はそのまま島のどこかに落ちて発破のように爆発し、轟音を風に轟かせた。


 (なん……たる……凄まじ……さだ……!!)


 ネルベェーンが、打ち震えながらルートヴァンの後姿を凝視した。ストラが雲の上の存在なのは認識していたが、上級魔族と対等に渡り合うルートヴァンも相当だ。


 そのネルベェーンの腕を、キレットが掴んだ。

 「下がろう……殿下の邪魔だ!」

 「う、うむ……」


 ネルベェーンはしかし、対魔結界術から出るのを躊躇した。が、キレットに促されて下がると、なんと結界は2人に着いて動き、足元からズレなかった。


 「す、凄い……!」

 ネルベェーンは二度、感嘆し、改めてルートヴァンを見やった。


 ルートヴァンは右手で杖の中程を持ち、水平に倒した構えで、素早く倒れ伏すバ=ズー=ドロゥに近づいた。


 「う…!」


 まだ驚愕と動揺を表情かおに浮かべたままのバ=ズー=ドロゥ、珍しく感情をあらわにし、


 「人間ごときが! 舐めてるんじゃあああないぞッ!! 本来であれば! お前など! 敵ですらないのだああああ!!」


 一足飛びで起き上がり、魔力を両手、両足先に凝縮する。魔力濃度が一気に高まり、赤色化した。レミンハウエルやゴルダーイも使用した、超凝縮魔力を直接、敵にぶちこむ戦闘法だ。


 が、魔王とバ=ズー=ドロゥでは、扱える魔力の絶対量・出力に天地の差がある。


 まして、いまは大魔獣ランヴァールの支配に7~8割がたの魔力を費やしている。


 それでこの出力と濃度(赤色)であるから、本来であれば本人の言の通り、並の人間では相手にすらならないのは事実だった。勇者級でも、よほど高レベルのパーティでなくば、まさに相手にならない。


 まさに、準魔王クラスと云えるだろう。


 ルートヴァンが、冷ややかなうすら笑いで、杖を手槍のように構えなおす。その杖の先に、同じく赤色に輝く魔力が槍の穂先のように光った。


 (こいつさえ殺せば……! 『海魔の杯』を使えるものは、いなくなる……!!)


 バ=ズー=ドロゥが奥歯をかむ。


 そのはずだった。いかにストラが……異次元魔王が異次元の強さだとて、ゲベロ島に辿りつけなければ意味がない。そういう作戦だった。そう、命令されていた。


 「お前さえ殺せば!! 我が身がどうなろうと!! 我らの勝ちなのだ!!」

 バ=ズー=ドロゥが魔力を背後に吹き上げて吶喊とっかんするや、島がまた揺れた。


 だが、先ほどまでの揺れとは少し、性質が違った。

 島自体、島全体が揺れるというより、溶岩台地が崩れる揺れだ。


 すなわち、ストラが本格的に巨大な甲羅を覆う膨大な溶岩台地を破壊しはじめたのだ。超絶的な広域探査で表層岩盤部の「目」を見極め、超高周波を叩きこみながら甲羅状大地に影響を与えない範囲の絶妙な威力と方向で爆破し、豪快に破壊してゆく。地割れめいて島を覆う岩盤に巨大な亀裂ヒビが入り、崩壊して海に滑り落ちた。重量が軽くなったためか、島が浮き上がり始めた。その動きで、さらに大地の崩壊が誘発される。


 その揺れの中、バ=ズー=ドロゥとルートヴァンが再び激突。


 バ=ズー=ドロゥの吶喊とっかんからの正拳突きを、その腹に杖を突き刺すように押し当て、ルートヴァンが止めた。


 (この拳を止めるか……!)


 バ=ズー=ドロゥがむしろ感心しつつ、右手首辺りから数本の触手を伸ばす。これは、魔族ならではの攻撃だ。


 その触手がルートヴァンの顔や首に巻きつき、強力に締めつけると同時に、猛毒の鉤を食いこませた。


 ルートヴァンも、

 (こいつ、腹に杖先が突き刺さらないぞ……!)


 鋼の槍より鋭く魔力が凝縮しているが、バ=ズー=ドロゥの腹筋は突き破れなかった。そして、顔や首に触手が絡みつく。


 その触手は、しかし、ルートヴァンが強化ボディスーツのように全身に纏っている魔力により、瞬時にズタズタになった。


 とたん、ルートヴァンがバ=ズー=ドロゥの左側に右足を進めながら杖を引き、バランスを崩して前のめりになるバ=ズー=ドロゥの背中に、腕の内で手繰った杖を振りかぶって叩きつけた。


 その杖先には、薙刀なぎなたのような魔力の刃があった。

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