第8章「うなばら」 6-8 骨董的価値
ストラは、まるで祠のように盛り上がっている地面の一部を指さした。この1メートル半ほどの盛り上がりごと冷えた溶岩大地に埋もれていたが、ストラが掘り起こした……というより、化石のクリーニングのように、甲羅状の地面と一体化しているその盛り上がりを削りだしたのだ。
ということは、この盛り上がりは、甲羅の一部か……。
「……な、なんでやんす? この中に?」
「たぶん」
プランタンタンが物怖じもせずに、盛り上がりの周囲をグルグル回り、ペタペタと触った。
「どこにも、穴も扉もねえでやんす」
「硬質生体組織に取りこまれている状態に酷似」
「へえ」
当然、プランタンタンは意味不明である、
ストラは盛り上がりを直に接触し、探査を開始。内部深層探査は未だ不能だが、表層接触探査は可能だった。
(既に観測・記録済みの魔力子依存生命体外殻に類似……魔力子による特定文様パターンは認められず、光子力、熱核反応、プラズマ類、物理的直接打撃、その他物理攻撃が可能……)
とはいえ、この盛り上がった部分を破壊し、中の物品も壊しては本末転倒。
ストラは掌にさらに細かい超極高周波振動効果を発生させ、プランタンタンが耳を押さえる横で静かに盛り上がりに当てている手を動かした。
すると、どうだ。
まるで砂山が崩れるように、ストラの手が当たっている部分が観る間に崩れていった。
そして、この甲羅状物質に波長を合わせているため、甲羅以外の物質が綺麗にその崩れた粉の中から浮かび上がった。
「こりゃあ……!」
プランタンタンが、薄緑の美しい眼を見開いた。
ストラは丁寧にその物品の周囲の甲羅状物質を極小破砕し、物品だけを浮かび上がらせた。
砂というか、粉の上に、それが横たわる。
小さくて地味な、銀のゴブレットだ。
細身で、我々で云うパーティグラスや、シャンパングラスのようにも見える。
宝石も何もなく、中流貴族か中級商人の家で使い古されたような物にしか見えなかった。
魔法の物品と云うが、特に呪文が刻まれているようにも見えない。
プランタンタンが触ろうか触るまいか迷っていると、ひょいと横からストラが手を伸ばしてそれをとった。
「あっ、旦那……なんともねえですか?」
「うん」
ストラの手にあるゴブレットを、プランタンタンがマジマジと見つめる。
そのまま、ストラが一足飛びに穴の上に出たので、プランタンタンがあわてて岩壁をよじ登って続いた。
地面の上では、フューヴァとペートリューがストラから手渡されたゴブレットを持って、小首をかしげていた。揺れが収まって少し落ち着いたバーレンリとクロアルも、やや離れた場所からそのゴブレットを見つめた。
「なんだよ、こりゃあ」
フューヴァが、プラプラとそのゴブレットを揺らし、そっけなく云い放った。
「こんなもんが御宝なのか?」
明らかに拍子抜けしている。
「フューヴァさん!! あぶねえ!! 落としたら一大事でやんす!!!!」
ちょうど穴をよじ登ったプランタンタンが、眼の色を変えてフューヴァに駆け寄った。
驚いたフューヴァが落としそうになり、なんとか持ち直す。
「脅かすなよ、プランタンタン」
「いいでやんすか……これはきっと、骨董的な価値があるでやんす!!」
「こっとおだあ!?」
フューヴァが、半笑いでペートリューを見た。ペートリューはよくわからず、同じく半笑いで返した。
「あるわけねえだろ」
「いいや! 絶対絶対、そうにちげえねえでやんす!! でねえと、こんな場所に隠さねえでやんす!!!!」
「そうかあ?」
フューヴァが、またペートリューを見た。
「いやっ、その……これは、大魔獣を操る魔法の物品のはず……」
ペートリューが珍しく正論。
「そうだぜ、キレットがそう云ってただろ。そのために、わざわざ来たんだぜ!? 御宝の意味が違わあ」
「そういや、そうでやんす」
プランタンタンが急に素になり、肩を落とした。
「だろ?」
逆に、フューヴァが意味も無く鼻が高くなる。




