第8章「うなばら」 6-6 御宝様のにおい
「……ご……っ……!!」
バーレンリが息を吸おうとして、魔物の焼けた異様な臭いに喉が詰まったとたん、即座に円盤が3人を囲うようにバリバリとプラズマ流の雨を降らせて、岩の隙間に隠れていた小型の魔物を全て駆逐した。
「ッ……!!」
それが数秒で終了し、3人が固まっていると、
「アィイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」
その悲鳴にまた身をすくめ、声のほうを見ると、同じように魔物を撃退してもらったペートリューが泣きながら凄い速度で駆け寄ってきていた。
「っお、おい、転ぶなよ! 落ち着け!」
フューヴァが叫んだが、驚くべきことにペートリューは、普通に歩くのも困難なゴツゴツの岩場でまったく躓きもせずに合流した。
「かヒューッ、ハヒューッ……!」
そして、ひきつけのように息をつきながら、一気に肩下げ鞄に入れているワインの水筒7本の内3本を空けた。
「…………」
その様子を3人が半ば呆然と見つめていると、
「おおおおー~~い!! なにやってるんでやんすかああーーーーッッ!! 遅いでやああんすうううーーーーー~~~~~!!!!!!」
30メートルも進んだ先で、プランタンタンが叫びながらぴょんぴょんと跳びはねていた。
「なんで、あいつは襲われねえんだよ!!」
半分怒りをこめてフューヴァが叫び、4人が急いでプランタンタンのところへ向かう。
「こっちこっち、こっちでやんす!!」
合流したとたん、プランタンタンがまた先を急いだ。
そこから息せき切って数百メートルも島を縦断し、ほぼ中央部に近づいたころ、
「……ところで、さっきから気になってたんだけどよ、ありゃあ、いったいなんだ!?」
ハァハァ云いながら、フューヴァが指をさした。テーブル状で平坦な岩場から、真っ黒い岩石や土砂が吹き上がっている。
「か、火山の噴火か!?」
「なんでしょうね……!」
クロアルが、拳で汗をぬぐいながら答えた。
もちろん、それはストラが素手で島を形成する表層岩盤層を砕き、掘り割っているのだ。
「そんなん、どうでいいでやんす! この竜が、そろそろ御宝様に近づいたようでやんすよお……ゲヒィッシッシシシシッシシィイイイ……~~~……!!」
息も切らさずに肩で笑うプランタンタンを不思議そうに見つめ、そして3人は青い小竜を見た。イタチやトカゲのように岩の上をチョロチョロしていた青小竜、だが、ここにきて同じようなところをただグルグル回るだけとなった。
「な……なんだよ、どこにあるんだ?」
「ただの岩場にしか見えません」
バーレンリとクロアルも、申し訳なさげに途方に暮れる。いくら盗賊スキルがあるとはいえ、ただの岩場ではどうしようもない。もっとこう、人工物……地下通路の罠とか、宝物庫の扉、宝箱の鍵などで無くば、彼らの技術に用は無い。
「魔法で、隠されているのかも!?」
クロアルがそう云い、試しに「失せ物探し」の神聖魔法を唱える。が、効果は無かった。よほどの高度魔術で隠されてるか、何も無いかどっちかだ。
「ペートリュー、何か分かんねえ……分かるわけねえよな」
云いかけて、フューヴァがまた青小竜を見た。マジかよ、という表情で、バーレンリとクロアルがそんなフューヴァとペートリューを見比べたが、ペートリューは半笑いでボサボサの赤い髪を手で梳きながら、ひたすら水筒を傾けているだけだった。
ちなみに、5本目が空いて6本目に手を付けたところだった。そして、
(どうしょ……あと2本しか無いや……早く見つからないかなあ、その御宝)
と、ハラハラしながら青小竜を見つめた。
そして、青小竜が、とある大きな岩の上で止まった。
「ここッ!! ここでやんす!! この下でやんす!! ここ! ここを掘るでやんす!! ここ! ここ!! ここおおおおおー~ー~~ッッ!!!!」
プランタンタンがそう叫び散らして、両手を振り回しながら跳ねまくった。
「掘れって……どうやってだよ!?」
「それは、知らねえでやんす」
「いきなり落ち着いてんじゃねえ!」
フューヴァが目をむいて、プランタンタンの肩を小突いた。そしてバーレンリとクロアルを見たが、流石に2人とも岩を掘り返す力も技術も無い。
「どいて」
見ると、いつの間にかストラが半眼無表情で立っていた。
「旦那!! ストラの旦那あああ!! この下でやんす! この下!! 御宝様のにおいがするでやんすううううううう!! ゲヒッ!! ゲヒッィッ!! ッシシッシシ~~!!」




