第8章「うなばら」 6-5 甲羅
「……ほぅ……」
ルートヴァンが、あまりに吹き上がる怒りを抑えるように、目を細めた。
荒涼とした岩場に水を滴らせ、いつの間にか立っていたのは、魔族バ=ズー=ドロゥであった。
ストラは準超高速行動で地面を大きく掘り進み、10分そこそこで直径5メートルほどもある綺麗な竪穴を掘り終えた。まるで巨大なマンホールのように、すっぽりと繰り抜かれている。これを手彫りで行うのも然ることながら、こんなに綺麗に仕上げる必要もよく分からなかったが……それは、そういうプログラムが組まれているとしか云いようがなく、ストラの土木作業系プログラムを組んだ人間の性格というしかない。
「……」
ストラは真っ暗な穴の底で、地面に手を当てた。
なぜ、ぴったり5メートルで止まったのか。
そこで、明確に土質が変わったからである。
だが地層では無い。岩でも無い。
(甲羅……?)
そうとしか云いようが無かったが、もちろん硬質ケラチン構造ではない。内部探査も相変わらず不能だった。なんの成分なのか、まったく不明だった。が、少なくとも冷えて固まった溶岩ではない。
(まさか……)
ストラは立ち上がると、岩盤に身体ごとつっこむようにして突入し、猛烈に竪穴を広げ……いや、巨大な未知甲羅(仮)状大地の上に滞積している膨大な量の溶岩を破壊、除去し始めた。
そのころ、当然ながらプランタンタン達やラペオン号も魔獣の襲撃を受けている。
ルートヴァンの青い小竜は岩盤地帯を凄い速度で駆け、それについてゆけるのはプランタンタンだけだった。どんどん離れ、島の北部へ向かう。
「待て、待て、プランタンタン!! バカヤロウ、待てったら!!」
フューヴァが叫ぶも、眼の色を変えたプランタンタンは聴いていない。
やがて、岩陰の影に見えなくなった。
「まずいぞ、はぐれちまった!」
息を切らし、フューヴァがつぶやいた。
バーレンリとクロアルも、慣れない急行軍に驚き、激しく息をついた。そして後ろを見やると、ペートリューが完全にへばって、これもかなり離れていた。
「こっちは、着いて来れねえってか……!」
フューヴァが顔をしかめた。
しかも、
「……フューヴァさん!」
バーレンリが剣を抜き、フューヴァの前に立った。
「うわっ!」
フューヴァも叫び、腰が抜けそうになる。
魔獣だ。
しかも、カニとゴリラを合わせたようなやつ、グソクムシとウナギと人間を合わせたようなヤツなど、訳の分からぬ形態のでかいのが3匹もいる。
「こんなの、どっから出てきやがったんだよ!!」
今の今まで、視界のどこにもこんな数メートルもあるようなバケモノはいなかった。忽然と現れたという他は無い。
「アェエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!」
分かりやすい悲鳴が風に轟き、見やると、ペートリューの前にも2匹の形状不明瞭な名状しがたい魔獣がいた。
「クロアル、ペートリューさんのところへ行け!」
「了解です!」
と、云うものの、3匹のうち1匹が素早く3人の背後に周り、フューヴァ達とペートリューを分断した。
さらに、大型個体に注意を向けさせている間に、足元をサソリや毒蛇のような小型の魔物も岩影に紛れて近づく。
ストラやルートヴァンクラスでなければ、全滅は必至の状況だ。
が、いま、頭上にはストラの「円盤」がいる。
範囲は小さいながら、ストラと同等の三次元探査能力を有している。
ビュゥン……!
という音がし、フューヴァの頭上数メートルに待機している円盤が反応。3000℃もの超高熱プラズマ弾が、3発同時に飛んだ。
バス!!
「……!!」
一瞬の光と熱波に、フューヴァ達がすくみあがる。
恐る恐る目を開けると、魔獣どものいた場所の岩場が融解して真っ赤な溶岩となっており、3匹の魔獣は身体の一部の破片を残して完全に熱分解されていた。




