第8章「うなばら」 6-3 総攻撃開始
(ギュムンデ地下空間探査不能状態に類似……すなわち、魔力子による空間歪曲効果探査妨害が働いているとほぼ確定。大魔獣ランヴァールは、高確率で島の地下……いや、内部に隠蔽されていると推定)
ストラが、その鋼色の半眼を足元に向けた。
そのまま、スタスタと浜から溶岩台地へ進む。
そして、歩きながら準超高速行動に移行し数秒とかからずに島の中央部まで行くと、両手に超高出力高周波振動を発生させ、いきなり手で地面を強力に掘り始めた。
これは、地下に隠されていると推測されるランヴァールまでの距離が分からないため、熱攻撃による岩盤融解での接触では、ダメージを与えすぎてしまう可能性があるためである。
まるで火山が噴火したかのように砕けた溶岩が空高く吹き上がったため、ラペオン号では何が起きたかとみな驚いたし、それでなくとも、突如として島全体がグラグラと地震のように揺れたので、ルートヴァンも足を止めた。
「で、殿下!」
キレットがストラの行動に気づき、また周囲の異変にルートヴァンを呼んだ。
「聖下が仕掛けたぞ! そして、魔獣どもがそれに応えた……!」
3人の周囲に、岩盤に擬態していたもの、岩盤の隙間に潜んでいたもの、海中に隠れていたもの、空中高く隠れていたものなどの大小の魔獣が、ゾロゾロと出現した。
その数は、40ほどだろうか。
やはり、1匹として同じ姿の物はなく、完全に合成魔獣だ。様々な原生生物……植物も含む……をごちゃまぜにしたような姿をしており、唯一の共通点は、この島を形成する溶岩と同じ質感と色の外殻や毛並み、肌であった。
とうぜん、ラペオン号にも何匹かは迫ったし、島のどこかを走っているプランタンタン隊にも魔獣が襲いかかった。
「殿下、総攻撃です!」
「当たり前だ! 敵も必死だ! だが、このデカさのヤツが何百何千もいるとは思えん。いかに魔獣とは云え、大魔獣に寄生しているというのならばな……」
寄生虫が多すぎた場合、宿主は弱って死ぬ。バ=ズー=ドロゥが魔術で生み出しているとしても、魔力を大魔獣に依拠していると仮定すれば、おのずと限界はある。ルートヴァンは、そう考えていた。
「そして、いかな魔獣であろうと、この程度では我らの敵では無い! まして、聖下のな!」
「……!」
キレットとネルベェーンが、ルートヴァンの背中を見た。
(わ、私どもを……仲間と御認めに……!)
そして、2人で目を合わせ、小さくうなずく。
「い、いかさま!! 殿下の後ろは、御任せ下され!!」
「当たり前だ!!」
云うが、ルートヴァンが疑似生命付与魔術を心中思考発動。魔物の足元から溶岩が崩れ、あるいは剥がれて合体、身長5mはある無骨な岩石ゴーレムが2体、出現した。
すかさず何匹かの魔獣がゴーレムに飛びついたが、ゴーレムがとんでもないパワーとスピードで魔獣を殴り倒し、蹴りつけた。その威力は、「フランベルツの魔王」と称された魔術師ガルスタイの創り出したゴーレムの比ではない。しかも、即席でこれである。ガルスタイとルートヴァンでは、魔術師としてのレベルが根本から違う。
さらにルートヴァン、秘術を発動する。
対魔効果と物理的破壊を組み合わせた、高レベル魔術同時使用のかなり高度な魔術である。単純な火だの水だのが効果の薄い相手に対する攻撃であり、船上のように風を使うには相手が近すぎる状況で最大の効果を発揮する。
「砕けよ!!」
ヴィヒヴァルン王都ヴァルンテーゼンの地下に鎮座する父王太子が合魔魂により得ている赤色クラスのシンバルベリルより次元を超えて供給される膨大な魔力を使い、強力な対魔効果を乗せた「分解」魔術が炸裂!!
竜とネコ科類似生物と昆虫類を合わせたような、3mはあるバケモノが、一撃で粉微塵となって風に散った。
「ハハハ、砕けよ、砕けよ、砕けよ!! 我が前に立ちふさがる無礼で汚らわしい魔物どもは、ことごとく砕け散るのだ!!」
これは、魔術は思考行使しつつ、つい口から自分に酔うような言葉が出ているのだ。
そしてその言葉の通り、ルートヴァンに迫る魔獣が、片っ端から塵芥と化す。ゴーレムが投げ飛ばし、ルートヴァンの前に叩きつけられた魔獣も同様だ。
(す、凄まじい……!!)
(なんたる力だ!!)
キレットもネルベェーンも、ストラとは違う迫力とその強大な力に、恐怖した。これは、同じ魔術師だからこその恐怖だった。まさに、レベルがケタ違いに違う。




