第8章「うなばら」 6-2 上陸
結論から云うと、この程度の島など、ストラにかかっては指先をちょいと動かすだけで木端微塵にできる。しかし、それでは意味がない。この島の内部に隠されているであろう大魔獣ランヴァールを確保しないといけないし、大魔獣をコントロールするというアイテムも入手しないといけない。そもそも、そんなことをすればラペオン号も巻き添えとなって蒸発する。
波と風の音以外に何も聞こえない、異様なほどの静寂さの中、ルートヴァンの操る風と絶妙な操船により、ラペオン号はゆっくりと船首を傾けて小さな入り江に入り、申し訳程度に存在する砂浜の沖に錨を下ろした。すぐさま上陸用の短艇が用意され、上陸部隊が乗りこむ。
短艇は11人乗りで2艇あり、漕ぎ手が6人、船頭が1人乗るため、運べるのは一度に4人である。船の両舷に備えられている短艇を滑車とロープで素早く着水させ、縄梯子でまず船員達が下りた。そして第1艇にルートヴァン、キレット、ネルベェーン、バーレンリが乗りこみ、第2艇にプランタンタン、ペートリュー、フューヴァ、クロアルが乗った。プランタンタンは、サルみたいに目にもとまらぬ速さで下りたが、フューヴァは慣れぬ動作に四苦八苦。ペートリューに至っては足の一歩を下ろすのにも苦労したが、それぞれなんとか船員たちの補佐で短艇に乗ることができた。
なおストラは、気づいたらもう勝手に飛んで上陸していた。
「風が強いな」
髪を押さえて目を細め、砂浜から上陸したルートヴァンがつぶやいた。丘も木々も無い平坦な島のため、吹きつける海風が強かった。
「ルーテルの旦那! じゃあ、さっそくあっしらは、御宝探しに出発するでやんす!」
鼻息も荒く、昂奮したプランタンタンが大声を張り上げる。
「まあ、プランちゃん、待ちたまえ」
云うが、伝達魔法ほどの大きさの、真っ青な小竜が出現した。
「こいつが、魔力を嗅ぎつける。大魔獣を従えるという、魔族が造りし魔法の物品だ。特殊な魔力が使われているはず。それに、何かあったらこいつで連絡を」
伝達と探索を兼ねた小竜のようだ。
「こいつを、ペーちゃんに預けるよ」
「フェ!」
しゃっくりのような声をあげ、ペートリューが喉を鳴らして水筒を傾けた。
「オマエしかいねえだろ、仮にも魔法使いなんだからよ!」
フューヴァがそう云って、ペートリューの肩を叩く。
さらに、既に明後日の方向を凝視して広域三次元探査を続けるストラが、待機潜伏モード自衛戦闘レベル2を発動。テトラパウケナティス構造体分離方式で、お馴染みの「円盤」を3つ発生させ、3人の頭上に展開した。
「おお……っ!」
3人と行動を共にするバーレンリとクロアルが、直径2メートル程の平べったい物体を見上げて感嘆する。
なお、当たり前だが、この2人は保護対象外だ。
「じゃあ、出発でやんす!!」
眼の色を変えたプランタンタンがそう宣言すると、青い小竜が翼を畳んだまま、臭いを嗅ぎつつイタチめいてチョロチョロと溶岩の地面を走り出し、
「御宝探検隊! 御宝探検隊! 御宝探検隊イイイ!」
と、叫びながらプランタンタンが続く。
その後ろを、
「おい、あんまり先に行くなよ!」
フューヴァが続き、ペートリュー、バーレンリ、クロアルが続いた。
それを見送ってルートヴァン、
「では聖下、我らもあのふざけた魔族を誅殺するべく、参ります。聖下におかれましては、ラペオン号護衛隊も含め、我ら全体を監視・統率されつつ、大魔獣を発見、攻撃、弱体化を御願い奉ります。いちおう、ラペオン号には、対魔結界術及び風の防衛魔術を仕込んでおりまする」
「うん」
「行くぞ」
ルートヴァンがキレットとネルベェーンに云い放ち、3人も溶岩の荒野を歩きだした。
ラペオン号では、ホーランコル、ドゥレンコル、ネルーゴフン司祭、カバレンコフン、そしてアーベンゲル神官が甲板上で警戒態勢を組んだ。
なお、ネルーゴフンとカバレンコフンは、
(クソッ……船上では、寝首を掻くのは厳しい……むしろ、魔物が襲って来れば、そのどさくさで……)
などと、2人とも同じことを考え、警戒そっちのけで互いに隙を窺っていた。
さて、ストラは到着前からずっと三次元探査を実行していたが、
(どうしても、島の内部が探査不能……)
浮島の全外周部は、ミリ単位で探査計測が終了している。
だが、島の内部は、相変わらずまったく探査不能状態だった。




