第8章「うなばら」 5-8 同士討ち
「大したものではないか、ホーランコル。多少大物だが、まかせて良いな?」
「よろしゅうござりまする、殿下!」
ならば、とルートヴァン、船を周回しながら溶岩弾めいたものを吐き続ける2匹めがけ、一気に勝負をつける。
風圧を操り、風の万力のように1匹を押さえつけて固定すると、もう1匹に叩きつけた。そこへ竜巻が急降下し、2匹同時に粉微塵としながら海中につっこむ。竜巻が水を吸い上げ、水柱が立った。
一方、キレットとネルベェーン、2人同時に南部大陸の言葉で呪文を唱え、水平飛行で迫る8匹の魔物の内、2匹をコントロールすることに成功した。2人の実力ならば、火竜などの大型の怪物や魔物で4、並の魔物であれば10も余裕で操ることができるが、この未知の魔獣はやはり勝手が違った。大魔獣ランヴァールの魔力に寄生しており、しかも、今はその大魔獣が魔族バ=ズー=ドロの支配下にある。そのため、バ=ズー=ドロの魔術及び魔力により、他者の支配を非常に受けつけにくい状態になっているのだ。
だが、2匹でもコントロールできたのは、さすがというべきだった。2人でなくば、1匹も操れなかっただろう。
無言で杖を振りかざし、魔物に同士討ちをさせる。2匹が、いきなり仲間に襲いかかった。
不意をつかれ、襲われた2匹が翼や首をやられ、くの字にひゃげて波間に落ちた。
続けざまに、襲いかかる。
その時には、異変に気づいた魔獣が逆襲した。
まさに同士討ち。互いに何やら不気味な色をした汚水めいた液体や溶岩弾、さらには真っ黄色のガス状物質を吐きながら、ひっくり返って4匹同時に海に落ちる。
残りの2匹は、新たに2人がコントロールを奪い直した。
「上出来だ、2人とも!!」
「殿下……」
2人が振り返り、
「有難き幸せ」
「聖下も御喜びになるだろう」
「ハ……あの2匹は、如何しましょうか?」
「得体の知れぬ魔物だ。処分する。まかせよ」
「ハッ」
もう、水を吸い上げる竜巻が接近し、海上に止まってグルグルと狭い範囲を旋回する魔物につっこんだ。
高圧水カッターと真空と風圧で、魔物が見る間にバラバラとなって海に飛び散った。
「あとは……」
甲板状の1匹だ。
その前に、後方の離れた場所で機雷が爆発したかのような猛烈な水柱と、海底火山の噴火めいた水蒸気の塊が立った。
「聖下だ!」
ルートヴァンが、そう云って誇らしげに見つめた。
「さすが聖下よ、魔物を船から引き離し、25匹を一網打尽だ」
「はい……」
キレットが、畏怖と恐怖に眼を細めた。
水中に入ったストラは、確かに船から魔物を遠ざけようとしたが、あらゆる誘導波の試みは失敗に終わった。
(やっぱり、魔力子じゃないと、コントロールジャックは無理か……)
そのまま、重力制御推進により水中を大小25匹の魔獣の群れにつっこみ、魔獣どもがストラを無視して進んでその群れの中央に来たときに反転して魔獣どもと平行して進むように速度を調整すると、擬似核融合により自身を発熱させ数秒で周辺海水を摂氏500℃まで上げた。
たちまち膨大な水蒸気が発生し、沸騰して爆発する。何匹かの小さな魔獣が熱攻撃に耐えられず、組織が熱変性して砕けた。残りの大型固体も、何事が起きたかと、パニックとなって熱水から逃れようとする。
(ラペオン号との距離、約600m……もう少し離さないと、攻撃で船に影響がある確率が87%……)
そのためには、魔物どもをここに固定して、船の方から離れて行ってもらうのが最も手っとり早い。
ストラは、周囲の魔物たちを一匹ずつ水中突進で体当たりし、動きを止めた。と、いうより、ストラの突進で一匹ずつ身体に大穴が空くか、引きちぎれて死んだ。どんどん海底めがけて沈んで行く。
ほぼ同時に、ルートヴァンの指示でラペオン号が大きく進路を右に変え、凄い速度で遠ざかった。
(距離約800……900……1000……1200……よし)
最後に残ったのは、全長がラペオン号に匹敵する巨大な岩の塊のようなやつで、大きな尾とヒレ状の四肢があり、顔と思わしき部分に口のような裂け目が見えると、口内が溶岩で真っ赤に染まっていた。ストラが三度も突進したが、意にも介さない。体表の岩石状物質が砕けるだけだった。また、熱水もまるで効果が無かった。むしろ、開けた口の熱で、さらに熱水の温度が上がった。




