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第8章「うなばら」 5-7 対艦攻撃

 近づけば、魔物どもは意外に大きいことが分かった。小さい物でも2~3m、大きい物は10mほどある。姿形はバラバラで、統一性が無い。だいたい、鳥類とドラゴン類と巨大昆虫類を合わせたような外観だが、翼が2対、3対のものまでいる。色は溶岩台地のように真っ黒で、外殻や鱗、羽毛すらもゴツゴツとしていた。手や足、頭部、尾と思わしきものがあり、かろうじて生物のように見えるが、得体の知れぬ合成物体である。


 それらが、距離1000メートルほどまで接近すると、左右に別れた。


 ラペオン号から向かって右側が急降下し、8匹が海面すれすれを飛んだ。左側は、10匹が高度を一定にして真上に迫ろうとしていた。


 「……小癪な……」

 ルートヴァン、不敵な笑みを消さずに、実戦に胸を躍らせる。


 この世界、この時代の人々に、航空戦の概念を持つ者は少ない。例えば大戦当時のレシプロ攻撃部隊の場合、この左右に分かれたパターンであれば、海面近くの部隊が雷撃、高度を保っている部隊が急降下爆撃だ。


 だが、魔物がそれを行うとも思えない。


 で、なくとも、右群が何らかの水平攻撃、左群が直上からの攻撃であることは想像がつく。


 「キレット、ネルベェーン!」

 「ハッ!」

 「ここに!」

 2人の魔獣使いが、ルーテルの後ろに走り寄って控えた。


 「右の8匹をまかせる。聖下によると、あやつら、大魔獣の寄生虫だそうだ。普段と勝手は違うだろうが、見事に操り、同士討ちさせよ。聖下の御期待を裏切ってみろ、聖下の前に僕が誅殺してくれる」


 「御任せ下れ、殿下!」

 キレットが応え、ネルベェーンと共に右舷に立つ。

 ルートヴァンは左側を向き、上空を見やった。


 もう、凄まじい風圧の超絶的な突風が真空断層を伴って上空を唸った。ルートヴァンが、暴風魔術を心中で発動させた。急激な気圧の変化の影響で、甲板上の人々が耳を押さえた。


 風が逆巻き、竜巻が龍のようになって、魔物の群れへ突っこむ。


 既に真空断層が無数の刃めいてつきまとっているので、巨大なミキサーのようなものが魔物の群れに突き刺さったに等しい。


 岩のような体表組織を持つ魔物どもが、真っ黒にして濃い藍色の血飛沫をぶちまけて、瞬く生に粉々となった。


 「スゲエ!!」

 船長とホーランコルが、空を見上げて叫ぶ。

 だが魔獣どもも、危険回避くらいの本能はある。


 2匹、やられたが、残りが一斉に回避し、空中で散会した。

 そして一気に急降下の体勢に入り、ラペオン号めがけて降下する。


 別に爆弾を抱えているわけではないが……何かしらの攻撃を試みているのは間違いない。


 (小賢しい……!)

 風を操りつつ、ルートヴァン、

 「船長、回避せよ! 取り舵でも面舵でもなんでもいい!!」


 「え!? は……」

 船長がルートヴァンと上空の魔獣どもを交互に見やり、すぐさま、

 「おもおおおおおかあああああーーーじ!!!!」


 船が大きく右に転舵し、甲板も斜めになる。魔獣どもが翼をはためかせて、船の進路に合わせて方向を変える。みな、大口を開けているので、何か炎でも吐きつけようというのだろう。


 「そうは……いくか!!」


 近くの縄に捕まって船の傾きを耐えつつ、ルートヴァンが竜巻を操る。魔獣の背後より、獲物を食う龍のように突風が襲いかかった。


 たちまち3匹が身体を切り刻まれ、もう2匹が翼を切断されて錐揉みしながら海中へ落ちた。


 しかし、残った3匹がついに船を攻撃した。1匹の大型固体がまっすぐ甲板に降下、2匹が船の周囲を周りながら溶岩のようなものを吐いた。


 しかし、突風の壁が溶岩攻撃から船を防御。風圧で弾いて海に落とす。爆発と共に、大量の水蒸気が風に流れた。


 「かかれ!!」


 ホーランコルの号令一下、パーティの全員が甲板の魔獣に飛びかかった。全身が真っ黒の岩で覆われた、巨大なカマキリ(正確には水中甲殻類のワレカラ)とカラスとイソギンチャクを合わせたようなバケモノだ。全長が8mはあり、マストを折りでもしたら大きな被害となる。


 幸い、ホーランコル達は魔物退治で名を馳せているパーティで、流石に連携がとれている。ホーランコルの持つ剣は、聖騎士が使うものに匹敵する対魔効果+40付与の魔法剣だ。2人の神官剣士の持つ武器も、既に対魔効果+25魔法効果がある。


 さらに、ネルーゴフン司祭と補佐の神官職2人による連携魔法で、すぐさま魔獣の動きを封じる結界魔術を発動させる。御聖女おんせいじょを讃える言葉が鎖となって、魔獣を雁字搦がんじがらめにした。魔獣が、声とも云えぬ、岩戸岩をこすり合わせたような音を発して、暴れた。しかし、完全に呪文が抑えこんでいる。

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