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第8章「うなばら」 5-6 島が見えた

 しかも、空になった水筒に、いつの間に用意していたものか、机の下に仕舞いこんでいた中樽から蒸留ラム酒を移している。


 「この世がどうなろうと、最後まで生き残るのは、きっとペートリューさんでやんす……」


 プランタンタンが、呆れた顔でそうつぶやいた。

 「酒さえありゃあな」

 「ちがいねえでやんす」

 


 そのころ、ホーランコルは一等船室の自室で、バーレンリとクロアルより先ほどのネルーゴフンとカバレンコフンの確執騒動の報告と相談を受けていた。


 「なんとなく、気づいてはいたが……そこまでだったとは、ぬかった。オレの責任だ」


 「司祭は、かなり厳格です。ふだんは押さえてるんです。それが、ここにきて憤懣が爆発したようです。やはり、バレゲル派を仲間に入れているのは……」


 年長だが、立場的には司祭の補佐であるクロアル神官が、眉をひそめてそう云った。


 ホーランコルは、自身が世俗派ながら篤い王都派の信仰を持っていることを自覚しつつ、王都派とバレゲル派の架け橋になると良いと思っていたのだが、


 「甘かったようだ」

 断言した。


 「だが、今は目先の仕事を優先しなくてはならない。危険だが、100倍の報酬だからな!」


 「はい……」

 クロアルもうなずく。


 「無事にやり遂げたなら……今度こそ船も無くなるし、隊はいったん解散する。あの2人のうち、どちらかを残すわけにはゆかない」


 「分かりました」

 「まだ、誰にも云うなよ……」

 「もちろんです」


 バーレンリとクロアルが辞し、ホーランコルは頭を抱えたが、今は魔物退治に集中した。



 それから3時間ほどが経ち、2回、大きな之字のじ運動で進路を変えて、

 「島が見えたぞおおおおお!!」

 マストの見張り員が叫んだ。

 甲板で船長が望遠鏡をのぞき、

 「……島か、あれが?」


 まだ波間に見え隠れするそれは、真っ平なテーブル状で、真っ黒だった。小山も何もない。人為的に削り出したようにも見える。そして、木の1本も生えているように見えなかった。


 「しかも、マジで動いてやがる。この速度で、まったく近づいてこねえ」

 「船長、なんか飛んでますぜ!」

 島の上空に、鳥のような生物が多数いる。


 が、明らかに鳥では無かった。

 首も長いし、あからさまに、デカイ・・・。翼が4枚、6枚の物もいる。


 「バケモノがウヨウヨってことかい……!」

 船長が、波飛沫とも汗ともとれぬものを拳でぬぐう。


 「魔王様と、ルーテルの旦那をお呼びしろ! ホーランコルもだ!」

 が、いつの間にか、既にストラが甲板にいた。


 「警告。我々の接近を感知し、迎撃の魔物群が向かってきています。海中を大小、25匹。また、空中を18匹」


 「えっ」


 見ると、島の上を飛んでいたバケモノどもが、一直線にラペオン号めがけて飛んでくる。


 「ま、魔王様……!」


 船長が、及び腰でストラの後ろに下がった。海の荒くれも、流石に魔物の群れは勝手が違う。


 「聖下、もしよろしければ、海中の魔物の駆逐を御願い奉りまする。私めは、風を操作しつつ、あのカラスどもを1匹残らず海へ叩き落として御覧にいれましょう」


 これもいつの間にか甲板に来ていたルートヴァンが、白木の杖をつき、不敵な笑みを崩さず、云う。


 「いいよ」

 ストラが、スタスタと船首へ向かった。

 「ホーランコル」

 「はい、殿下」


 「もしかしたら、木っ端のような魔物が船にとりつくかもしれん。そいつらは、まかせる」


 「御任せを!」


 ホーランコルが指示をし、パーティの全員が甲板に上がった。ネルーゴフンとカバレンコフンは両舷に離れ、目も合わさぬ。


 「では、やりますか!」


 ルートヴァンも、船首近くに向かって進んだ。気がつけば、ストラがいない。もう、海中に飛びこんだのだ。


 レシプロ機編隊の対艦攻撃のように、黒い魔物どもが高度を下げながら接近した。

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