第8章「うなばら」 4-6 島が大魔獣
「勉強になるねえ」
しみじみとつぶやき、思わず後ろに控えているキレットとネルベェーンを見た。2人は、特に反応は無かったが、同じ魔術師でもルートヴァンは政治家や研究者であり、キレットたちは現場も現場、最前線で職人のように魔法を使って食っている。まったく立場も魔法の使い方も異なる。ヴァルベゲルとシラールが、どうして危険を冒してまでルートヴァンをストラの従者にしたのかは、この最前線の経験をさせたいがためだ。そして、それは最高の形で実施されている。
「それはそれとして……作戦を説明しよう」
ルートヴァンはいつの間に用意していたものか、フィロガリ周辺の海図を机に広げた。
「既に聖下の探知魔術により、ランヴァールと思しき巨大魔獣が潜んでいる海域は割れている。ここだ」
「…………」
ストラだけが相変わらず部屋の窓際に立ち、腕を組んでどこか遠くを見やっている。その他、キレットとネルベェーンを含め、プランタンタンたち5人が海図を覗きこんだ。
「島じゃねえか」
フューヴァがつぶやいた。
「しかも、ルーテルの旦那が上から書いてるでやんす」
プランタンタンもそう云うが、キレットとネルベェーン、そしてペートリューは意味が分かった。ルーテルが羽ペンで海図に書きこんでいるこの島こそが、
「大魔獣……そのものですか?」
ペートリューは、ルートヴァンではなく、キレットを見やってそう尋ねた。
「はい。ですが、正確には、巨大な魔獣を島で覆い隠しているのかと。そうして、ほぼ、この海域に居座っているのです。そしてここから、自らに巣食う魔物どもを送りこんできているのです。航路を通る船の一切を破壊し、万が一にも、ゲベロ島に近づけさせないようにしているのです」
キレットが、低い声で答える。
(ま、魔獣を島で覆い隠しているだって……!? どんだけでけえんだよ)
フューヴァは内心、絶句した。
「それで、作戦だがね」
ルートヴァンが不敵な笑みを浮かべて、説明する。
「複雑なものじゃあないよ。ラペオン号で、一気に接近する。群がる雑魚の魔獣をキレットとネルベェーン、それに傭兵の現地冒険者どもで相手をしつつ……もちろん、僕と聖下もできるかぎり戦うが……僕と聖下は、不届き者で身の程知らずの魔族を誅殺しつつ、大魔獣を攻撃して弱らせる。殺しはしない。道案内をしてもらうからな。問題はね、その大魔獣を操作する魔法の物品とやらを、どうやって探し、奪うかだが……」
「そんなん、あっしらにまかせてもらうでやんす」
プランタンタンが即答し、慌ててフューヴァが、
「ばか、てめえ、自分が何を云ってるのか、わかってんのか!?」
しかしプランタンタンはすました顔で前歯を見せ、
「御宝様探しで、あっしらが出張らねえ理由がねえでやんす。ペートリューさんが探し出して、あっしが盗ってみせるでやんす!」
「え!? あたしが探すんですか!?!?」
ペートリューが驚きつつ、もう、その手の水筒を一気に空けた。
「魔法の物品なんだから、この3人じゃあ、ペートリューさんしか分からねえでやんす」
「おい、アタシを入れてるんじゃねえ!」
「じゃあ、フューヴァさんは留守番を御願えするでやんす」
「なっ……!」
どこかで聞いたセリフに、思わずフューヴァはルートヴァンを見やった。
ルートヴァンはニヤニヤして、フューヴァを見ていた。
「バ、バカヤロー!! 誰が留守番なんぞするかよ!! やれっつうんなら、御宝でもなんでも探して奪ってやらあ!! 見てやがれ!! いいな、ペートリュー!!」
「ヒュッ!!」
フューヴァの啖呵と同時に、ペートリューが息を詰まらせる。否応なしだ。
「ようし、きまりだ!」
ルートヴァンが満足そうに、手を叩いた。
「なあに、僕も最大限に補佐するよ。聖下、これで……」
「いいよ」
ストラが振り向きもせずに云い放ち、魔族バ=ズー=ドロゥ討伐及び大魔獣ランヴァール捕獲作戦が決まった。




