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第8章「うなばら」 4-4 50倍の提案

 ルーテルを王都ガードラの高級商人、ストラをその凄腕の護衛、プランタンタンたちをお付と信じこんでいる船長は、商談が終わってフィロガリからネラベルへ戻る手配に来たと思ったのだ。


 「船を売りに出してるって、聴いたんでやんすが……」

 「良く知ってるな。その通りだよ。けど、誰も買い手がつかなくってさ」

 「それを、買いに来たんでやんす」

 「なんだって!?」

 船会社の社長と船長が、そろって目を丸くする。


 「さすがだなあ……けど、船員がいないんだ。オレたちは、もうみんな辞めるんだ。だから売れないんだ」


 「そこを何とか、御願おねげえしてえんでやんす」


 「ダメだよ、あんな魔物がいるんじゃあ、命と金がどれだけあっても足りないよ」


 「その魔物の群れを一網打尽にするために、ストラの旦那とルーテルの旦那が出張るんでやんす。その協力をしてほしいんでやんす。御金様は、50倍出すでやんす」


 「ごじゅううばいい!?!?」

 船長が絶句する。ひと財産だ。

 「足りねえでやんすか?」

 「う……! いや、その、しかし……!!」

 船長の顔がゆがんだ。ダメなら即答で断る。迷って深甚しているのだ。


 「ぜ、全員か!?」

 「全員でやんす」


 「でも……あんたら、王都の商人だろ!? なんで、そこまでして魔物退治を……」


 「違うでやんす。ストラの旦那は、魔王なんでやんす」

 「…………」

 一瞬、間があって、

 「え、ま、まおぉうう!?!?」


 「さいでやんす。このたび、海の果ての魔王を退治しに行くのに、手始めにここいらの魔物で海の向こうの魔王の手下どもを皆殺しにするんでやんす」


 「魔物をみなごろしだああ!?!?」

 船長がいちいち驚愕するので、フューヴァは気の毒になってきた。


 「え? え、え? あの、魔法戦士の旦那が聖勇者じゃなくって、まお、ま、ま、魔王で!? あ、あの魔物どもの巣を襲って、全滅させるってえのか!?」


 「まったくもって、さいでやんす」


 「いやっ……たっ、確かに、半端ねえ強さだったが……ここいらの魔物を全部ぶっ殺すちゅうほどには、見えなかったが」


 「それは、たぶん船に被害が出るのを防ぐために、本気じゃなかったんですよ」


 これはペートリューだ。酒をゴクゴク飲みながらそう云うが、陸に上がった海の連中は大抵ひっきりなしに飲んでいるので、意外に誰も不審に思わなかった。


 「本気じゃなかった、だって!?」


 「ルーテルさんの作戦にもよりますが……おそらく、ストラさんは1人で魔物を退治しに行き、その間、私たちは探し物をする必要があります。どっちにしろ船は必要ですし、皆さんは私達を運ぶだけでいいです。戦いは、ストラさんがやります」


 「う、むううん……!!」

 船長が腕を組み、顔をしかめて唸った。

 「その話、オレ達が乗った」


 そう云って部屋の奥から現れたのは、ラペオン号の護衛隊長をしていた戦士ホーランコルとドゥレンコルだった。彼らも船を降り、違う仕事を探すことになって、船会社に何かツテは無いかと打ち合わせに来ていたのだ。


 「あんたがたは……たしか」


 プランタンタンやフューヴァが、見覚えがあると云った顔になる。真剣な顔つきでホーランコル、


 「船長、最低、あんたと航海士だけでいい。あとは、オレ達でなんとか船を動かす」


 「むりだよ、そんなの!」


 「風さえ操れば、なんとかなるよ。前に、そういう船に乗ったことがあるんだ。もうちょっと小さかったけど、な……」


 「風さえって……そんなこと、できるわけないだろ!」

 「あの人は、魔王なんだろ? 風くらい操れるだろ」

 ホーランコルが、プランタンタン達を見た。


 「でも、ルーテルさんが、船を動かす魔法なんつう都合のいいもんはねえって云ってたぜ」


 これは、フューヴァだ。

 「ルーテルさんって……あの王都の御大尽か?」


 「違うでやんす。ルーテルの旦那は、ヴィヒヴァルンのすげえピカイチの魔術師なんで」


 「え? あの人が? ヴィヒヴァルンの?」

 「さいでやんす。あっしらと同じ、ストラの旦那の魔王様の手下でやんす」


 「じゃあ、なんとかなるだろ! 船を操るんじゃあない、風を進む方向に吹かせるだけでいいんだ!」

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