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第8章「うなばら」 3-5 魔族の襲撃

 ルートヴァンが再度尋ね、やっと地方伯が我に返る様に、


 「え!? いや、その……オホン! つ、つまり、魔王様が、魔獣を従えることにより……航路に出現する魔物どもが駆逐されると?」


 「ハイ、そうなる確率は高く、またどちらにせよ私どもは大型魔獣を従える作戦行動に移ります。地方伯殿がそれを支持しようとしまいと、私どもには関係ありませんが、支持していたほうが、航路を封鎖する魔物どもが一掃された場合の御自身の立場が向上すると推察します」


 「う、うむ……」

 「何を迷うのかね、伯爵」

 ルートヴァンがいつもの半笑いに笑っていない据わった眼で、地方伯を見た。


 「分かってくださいよ……魔王様と御聖女おんせいじょの戦いで……ウルゲリア本土は滅んだという……。事実は認めるが……納得はしていない……。それに、魔王様が魔獣ランヴァールと戦うことで、ノラールや、このフィロガリが壊滅する可能性は?」


 「可能性は、未確定要素がありすぎて計算できませんが、僅かながらあります。絶対に安全を保障するものではありません」


 「世の中に、絶対などあり得ないのだよ、伯爵」


 いちいちルートヴァンがストラの言葉をとって偉そうに畳みかけるので、地方伯は少しイラつきながらも、


 「それはそうだろうが、それでは、支持などできません」


 地方伯としては、ウソでも絶対に安全であると云ってくれたほうが都合がよい。何かあったら、ストラのせいにできる。


 「別に、無理に支持しなくても結構です。御任せします」

 ストラが半眼の無表情で淡々とそう云い、地方伯の顔が歪んだ。


 「フン……ここを新たなウルゲリアにするというので少しは感心したが、やはり国衆の田舎領主だな。覚悟を決めて、聖下に賭けたまえよ。ヴィヒヴァルンは、民も国も何もかも、その命運の全てを聖下に賭けているのだ!!」


 それはおまえらの勝手だろ……という表情かおで、地方伯が途方に暮れた。


 高級官僚や将軍達が、狼狽して地方伯を凝視したまま、ややしばし静寂が続く。


 (フン! だから、こんな平場ひらばではなく、ウラで我々だけで話しをしておけばよかったのだ。見ろ、引くに引けないじゃないか。これだから田舎領主は……)


 内心、ルートヴァンがうすら笑いを浮かべた。

 と、ストラが急に立ち上がり、皆がエッ、と思った時には、


 「当該世界人類保持限界を超えた、高濃度魔力内在生命体を感知。次元反転遮蔽効果による、空間迷彩を確認。魔族が隠れています。攻撃開始」


 そう云うが、会議室の隅に向けて、線香の火のような極小高熱プラズマが飛んだ。


 空気が一瞬で熱く歪み、会議室の角に火柱が立った。


 その炎の中から現れたのは、全身を深い藍色の軽装甲の鎧に身を包んだ、同じく深い藍色と緑と黒の縞模様の肌をし、海藻めいた茶色のザンバラ髪を振り乱した人類状高度魔力依存知的生命体……魔族であった。


 「うおおわああああああ!!!!」

 地方伯を含め、全員が席から転げ落ちるようにその場を離れる。

 ルートヴァンも反射的に白木の杖を取って席を立ったが、ストラが手で制した。


 (3000℃の大気プラズマを空間ごと遮蔽した……位相空間転移能力保持者と認定。大出力通常攻撃モードに移行)


 ストラが準超高速行動セミ・ハイマニューバに移行する寸前、魔族が手を上げた。

 すぐさま、炎が消える。


 既に建物に延焼しかけていたが、それも消え、焼け焦げた後と白煙だけが残った。


 同時に、魔族の背後より、濃い紫色をした 1メートルほどもあるワームというか、イソギンチャクの触手というか、ゴカイの化物というか、八目鰻というか……それらを合わせたような魔物が粘液と海水にまみれて何匹もウネウネと現れ、牙をむいて目にもとまらぬ速さで地方伯を含めた人間達へ迫った。


 すかさず、コンマ秒単位でストラのプラズマ球が正確に迎撃。

 魔物ども、悲鳴も上げずに消し炭となって砕け、または燃えあがった。

 「…………!!!!」


 地方伯や官僚達は声も無く凍りつき、老年の将軍も含めて大半が気絶してしまった。


 そしてルートヴァンの頭上に、いつのまにやら数メートルはあろう巨大なワームが逆さにへばりついていた。


 そやつが、大量の粘液と共にルートヴァンの真上に落ちた。


 が、ルートヴァンが傘のような魔力の防御壁を展開。魔物と粘液を防いだとたん、傘がめくれあがり、アメーバが獲物を食うように魔物を逆に飲みこんで、そのまま一瞬の内に消化……いや、分解してしまう。

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