表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
353/1278

第8章「うなばら」 3-2 世界がどうなるか、知る覚悟

 何人かは、思わず立ち上がった。


 地方伯、片眉を上げて小首を傾げつつ、ルートヴァンに手で指図して自己紹介を促した。


 「左様。フィーデ山の火の魔王レミンハウエルを打ち倒し、ヴィヒヴァルンの真に新たなる魔王となられた、異次元魔王ストラ聖下である。本来ならば、貴様らごときがその御尊顔を拝し奉るのも畏れ多いが……ここはヴィヒヴァルンではない。ノラールセンテ地方伯には、頼み事もある故……栓無きこととする」


 「…………!?!? ? ?? ? ? …………!?!?」

 無理も無いが、地方伯以外の全員が、驚愕に凍りついている。

 「ちなみに、我はヴィヒヴァルンがエルンストン大公、ルートヴァンである」


 ルートヴァン? 何人かが、聞いたことがあるような……といった顔となり、役人の1人が、


 「まさか! ヴァルベゲル王が嫡孫、ルートヴァン大公なのか!?」

 「殿下をつけろ、バカ者が」


 地方伯がすかさずそう云わなかったら、ルートヴァンの電撃が飛んでいたところだった。


 あっ、という顔になり、その中年の高級官僚、


 「た……大公殿下が、魔王様を引き連れ、わざわざこんなところ・・・・・・まで……どうして……?」


 「それを説明願うため、御足労頂いたというわけだ」

 地方伯がそう言葉を引き取り、悪い顔となって、


 「ミグラーコル、こんなところ・・・・・・で悪かったな。お前の祖父の代から、我が家に仕えているはずだが」


 「え……いや、いいえ! けして、そのような意味では!」

 官僚がドッと冷や汗をかいて慌て、ルートヴァンが助け舟。


 「いやいや、そちらの云い分は正しい。我とて、こんなところ・・・・・・まで自ら来ようとは、聖下にお仕えするまで夢にも思わなかったこと」


 確かに、事実上国交の無いヴィヒヴァルンの王子が、地の果てであるウルゲルアの東端にこうしていること自体が、前代未聞だ。


 地方伯は苦笑し、

 「ミグラーコル、座れ。冗談だ」

 ほっとして官僚が席に着き直し、地方伯、


 「では改めて、殿下及び聖下に、次のことを尋ねたい。御二方は、何のためにウルゲリアへ来たのか。ウルゲリアで何をしているのか、はたまた、何をしたのか。そのことと、西の方角の赤い空と、何か関係があるのか。遥か南方異国の魔獣使いを当地へ送りこんで、何をしようとしていたのか」


 「質問が多いな」

 ルートヴァンが苦笑。

 「答える前に、貴公らの覚悟を確かめたい」

 「覚悟だと?」

 地方伯が眉をひそめる。


 「我々が何を行い、その結果、世界が・・・どうなるか、知る覚悟だ」

 「フ……」

 地方伯が小鼻で笑った。

 「何を笑う?」


 「あの西の血の色の空を見れば、ただ事ではないことくらい分かる。それはもう、大異変と云って良いだろう。勿体ぶらずに、その大異変を早く説明してくれたまえ。私は、その説明如何でノラール地区の人々をどう導くか、考え、行動する責務がある!」


 「よかろう」

 ルートヴァンが席を立った。

 「では、聴かれた順に答えよう」

 将軍や高級官僚達が、息を潜めて緊張に耐えた。


 「レミンハウエルより魔王位を引き継がれし、こちらにおわす異次元魔王ストラ聖下を、偉大なる大魔神メシャルナーが御認めになり、新たな世界を支える『要』として御指名されようとしている。そのためには、かつてメシャルナー神がそうしたように、いま現在、世界を支える魔王達をいったん全て打ち滅ぼさなくてはならない。新しい世界を無から構築するためにな。聖下は、そのためにウルゲリアへ来た。そして、御聖女おんせいじょこと聖魔王ゴルダーイは……聖下に打ち倒され、消滅した」


 やはり……という表情で瞑目したのは、地方伯だけだった。


 というのも、御聖女が古い魔王であり、いまも健在である(あった)と知るのは、王都派・バレゲル派神殿上層部でも極一部の者だけであり、地方伯のような重要な貴族ですら、薄々そうではないかと感じていた程度で、一般人にしてみれば、


 「御……聖女が……まお……魔王……?」

 まさに、ポカーンである。

 官僚や将軍達の理解など知ったことではないルートヴァン、話を続ける。


 「その際、どういう不可抗力・・・・か知らないが……膨大な量の魔力が次元の亀裂より溢れだし……ウルゲルアの大地を染めたのだ。あの赤い光は、見渡す限りの大地が、恐るべき濃度の原初の魔力に染まっている光だ」


 「…………」

 地方伯が瞑目し、沈鬱に祈りを捧げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ