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第8章「うなばら」 2-6 人間模様

 「どぉおりゃあああ!!」


 やおら、リーダーのホーランコル、神聖剣を振りかざし、魔物めがけて船べりから飛び降りた。


 「メディーーッッ!!」


 ドゥレンコルが、ホーランコルの愛称を叫ぶ。この呼び名で呼ぶのは、同郷のドゥレンコルのみだった。


 (バカが……蛮勇と無謀は違う……高い金をとっておいて……)

 ルートヴァンが、冷笑を浮かべた。


 たとえ魔物を1体やそこら倒したとしても、この波に落ちて助かるとは思えない。また、この状況下で未知の魔物へ無防備な体制で直に接触するのも迂闊うかつだ。どのような反撃があるか想像もつかないし、あの濃灰色の甲殻に毒があるかもしれない。板金鎧など、紙のように切り裂くほど鋭いかもしれない。


 しかし、

 (おっ……)

 と、考えを改める。


 ホーランコルの背後に大きな光の環が出現し、自在に空を飛ぶとまではゆかないが、上から舞台の操線で吊っているかのように空中に浮遊、弧を描きながら螺旋に降下して、1体を対魔神聖剣で叩き斬った。


 効果はすさまじく、ただの一撃で、魔物はソーセージでも切ったかのように真っ二つになって青黒い血をぶちまけ、白波を染めながら沈んだ。


 「おい、例の魔法のベルトか!? 間に合ったんだな!!」

 ドゥレンコル、表情を明るくし、さらに速度を上げて鎖を手繰った。

 そして、ホーランコルが2体目を叩き斬ったころ、残った1体へ錨鎖びょうさが伸びる。


 その錨を、最後の1体が棒状の身体の先端で畳んでいた腕の1本を伸ばし、弾いた。


 同時に対魔効果が炸裂、腕が爆発して吹っ飛んだが、錨も鎖が千切れて海に消えた。


 「クソが!!」


 ドゥレンコルが叫び、ホーランコルはいったん高度を上げると船べりを蹴りつけ、弧を描きながら降下し、最後の1体へ迫る。


 すると、最後の1体が突進を止め、腕を全て開いてホーランコルに襲いかかった。


 「!!??」

 ドゥレンコルや船長、他の船員、メンバー達も息を飲む。

 同時に、船を護っていた4基の魔力の楯が動いた。


 2基がホーランコルの前に重なって展開、2基が左右から魔物を挟むようにエッジを突きたてた。


 細い魔物はひとたまりもなく、三等分されて沈んだ。

 僅かな静寂の後、船員達より大歓声があがった。

 「隊長!」

 「さすがです!」


 船員たちが仕事に戻り、甲板に降り立ったホーランコルを仲間達が讃える。

 「いや、流石なのは司祭だ!」

 ホーランコルが、ネルーゴフンを掌で指した。

 「いや……そのような……全ては御聖女おんせいじょの御導きにて……」


 珍しく相貌を崩し、両手を合わせながら波の音で聞こえないような声でそう云うネルーゴフンの横から、


 「いいえ、やっぱり、すごいのは隊長です!! さっすが、私の見こんだ御方です!!」


 聖騎士見習いの神官戦士カバレンコフンが、ホーランコルの腕に取りつきながら嬌声をあげた。


 その際、ネルーゴフン司祭の腕に軽くぶつかったものだから、司祭の顔がたちまち餓えた野良犬めいてゆがんだ。


 (このバレゲル派の雌犬めが!! 今に見ておれ……!!)


 司祭の性格上、ここでキャンキャン云い合うなどというはしたない・・・・・真似はしない。奥歯を咬んで、いつか恐ろしい眼に合わせてやると御聖女に誓う。


 そんな司祭をニヤニヤして見つめるドゥレンコル、はらはらしてカバレンコフンを見やるアーベンゲル神官、そのアーベンゲルの視線に気づき、ホーランコルに敬意と憧れを持ちつつも異性としてはアーベンゲルに密かに身分違いの好意を抱いているネルーゴフン司祭の、さらなる嫉妬と怒りと憎しみに満ち満ちた眼つきが交錯し、揺れる甲板の上で一種独特の雰囲気と空気を形成した。


 そんな護衛部隊の人間模様を偵察カラスを通して見やり、1等客室でルートヴァンが身を起こして大爆笑した。


 だが……。


 (当該船舶直下より急速接近する大型物体を感知……距離、約200m……中型潜水艦の急速浮上に酷似するも、魔力子マギコリノ依存生命体……大型の魔物が急速接近中……形状は……大型鯨類と有殻頭足類を合わせたような……よく分からない形状……)


 ストラが探査している間にも、150mに接近する。

 それは、ルートヴァンも気づいた。

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