第8章「うなばら」 2-5 魚形水雷型魔獣
そんな様子を、ストラは三次元探査ですべて把握していた。そして、半径数十キロの探査で、高速接近する複数の物体を確認していた。
その速度は、まさに先史時代の魚雷だった。
(魚形水雷なわけ無し……かと云って、生物の速度ではない……考えられるのは特殊生物兵器だけど……この世界のこれまでのデータから鑑みて、未知の魔力子依存生物……魔物と判断するのが妥当。その数、4……)
魔物ども、ちょうど船舶喫水線下の浅深度を保ち、荒れる波の下を高速で突き進む。
(頭足類と甲殻類を合わせたような形状……漏斗状の器官を身体後方に持ち、前部より吸いこんだ海水を吐き出すことによる水流ジェットを利用して高速推進……推進機構は、筋肉状組織の超高速収縮及び分子モーター及び完全自由関節による生体プロペラ……また、強度及び推進エネルギー的に、先端角部を構成している複数の脚腕部は、当該貨客船の木質舷側壁を容易に突き破ることは確実)
ストラはそう分析しつつ、特に何をするということも無い。ただ、ベッドの上に半眼で座ったままだった。
大揺れに揺れるマストの上の見張り員は、さすがに熟練、推進軌跡も出さず海中を進む魔物達が、波と波の合間から水面上に飛び出た瞬間を見逃さなかった。
「右舷からまもーーーのおおおぉぉーーーーーッッ!!!!」
前部マストの1人がメガホンみたいなやつを口に当てて叫ぶや、後方マストの1人も目を凝らし、すかさず、
「数はよーーーーーーン!! よーーーーーーんひーーーーーキぃいいいいーーーーッッ!!」
もう、ホーランコルがネルーゴフン司祭に手で指示を出すや、司祭はクロアル・アーベンゲル両神官2人を自らの左右に配置し、右舷に回った。ホーランコルとドゥレンコルも右舷に走り、バーレンリ・カバレンコフンの神官戦士2名は念のため左舷を警戒する。
「見えたぞ!!」
冷たい秋の波飛沫をかぶりながら波間を凝視していたホーランコルが、魔物を確認した。
「速いぞ!!」
もう、ネルーゴフンが神聖魔術を発動。壁のように大きな魔力の楯を4基、舷側に出現させる。クロアル・アーベンゲル両神官はそれを補佐し、御聖女を讃える聖典の一節を唱えながら神聖魔力を追加した。
その楯が見えているのかいないのか、全長3メートルほどの細長い姿をした魔物が、まさに雷撃のように突っこんだ。
絶妙のタイミングで、司祭が楯を4基同時に海中へ投下!
ギョォイィンン! という奇妙な音と、船が真横にずれるほどの衝撃を伴って、魔物の突進が魔法の楯に防がれた。
その様子は、ストラはもちろん、既に魔法の偵察カラスをマストに止まらせ……あるいは強風をものともせず周囲を飛ばせていたルートヴァンも逐次、詳細に把握していた。
魔物を相手にする場合、通常魔力より神聖魔力のほうが、効果が高いことは知られている。
(ふうん……あんな程度で、あれほどの突撃を止めるか……)
ルートヴァンは、そちらのほうが興味深かった。
「司祭!!」
ドゥレンコルが、ハンマー代わりに使っている小さな錨を振りあげ、叫んだ。楯を発生させつつ、ネルーゴフンが対魔攻撃魔法を付与した。
(ほう……すごいな)
ルートヴァンが、素直に感心した。
異なる魔法の同時使用は、そう容易ではない。才能だけではなく、経験や修行もいる。それを、あの若さで。
ドゥレンコル、船べりに片足をあげ、鎖を持って錨を頭上で振り回した。錨と云っても、人間が振り回せる大きさなのだから、小型ボート用だ。それでも、直撃すれば人間の頭蓋など木端微塵にできる。
楯に防がれ、後方に水流を吹き出しながら舷側に垂直に突き刺さっているかのように見えて止まっている魔物めがけ、ドゥレンコルが錨を投げつけた。
ジャッ、と鎖が伸び、1体に直撃。攻撃力+20、対魔物+40魔法が炸裂し、細長い身体が真っ二つになってくの字に折れた。尾のほうから水と青黒緑の体液を吹き出しながら、たちまち波間に消える。
「よっしゃあッ!!」
船長がガッツポーズ。
だが、まだ3体いる。
魔法の武器なら自動的に使い手まで戻るのだろうが、そうではないため、ドゥレンコルが鎖を大急ぎで手繰り寄せるまでタイムラグがある。
(そこで、攻撃魔術の使い手がいないのは、イタイねえ)
ルートヴァンがベッドの上に浮いて横になりながら足を組み、偵察魔術カラスを通じて状況を見ながらほくそ笑んだ。




