第8章「うなばら」 2-2 ホーランコル部隊
その船員を侮蔑と怒りの瞳で凝視しているのは、王都を本拠地にし、ここ2か月ほどフィロガリを含むノラール地区に来ている冒険者パーティの1人、ネルーゴフン司祭だ。若いが厳格なエリート女司祭で、原理主義的な側面も持ち合わせる修道冒険者司祭だった。いかに世俗信者とは云え、御聖女の信仰を揺るがすような発言を許せるはずもない。
が、今は信仰布教の旅ではなく、魔物退治だ。リーダーの手前、目をつむる。
ここで、船長が雇った冒険者7人組を簡易に紹介する。
ウルゲリアでの一般的な冒険者パーティは、例えばヴィヒヴァルンにおける魔術師の役割がそのまま神官や司祭に置き換わったと思ってよい。また、どうしても盗賊スキルを持つ者は信仰上忌避されるが、冒険行にはつきものだ。諜報スキル保持者を含む専門の盗賊は名目上いないが、手先の器用な者がこっそりそのスキルを有している場合が多い。
「技術自体は悪ではなく、善行のために使用する場合はよし」
などという、いかにも面倒くさい建前で動いている。
甲板で腕を組み、湾の奥の外洋の荒波を凝視しているのはリーダーの戦士ホーランコル。29歳、男。称号としての勇者一歩手前というか、実力は勇者級だがウルゲルアでは勇者と云えば聖騎士と相場が決まっているので、ただの戦士である身分では、どうしても勇者になりきれないという微妙な立場だった。攻撃力+20付与(魔物+40)の神聖剣を使い、魔物退治に定評がある。ノラールセンテ北部出身。王都派の世俗信者。
その横に立つ大男は、ホーランコルの同郷かつ古い相棒で戦士ドゥレンコル。25歳。男。海兵上がりで、大きな三又槍やハンマー代わりの小型の錨を使う猛者である。王都派の世俗信者だが、信仰心はかなり篤い。
この2人を戦力の中心として、残る5人は全て聖職者だ。
神官戦士が2人、司祭が1人、神官が2人である。
この5人は、同じ聖職者でも神殿に常駐する場合と異なり、正確には修道冒険聖職者という。冒険の旅で修業をしつつ、世の人たちを悪賊や非信仰者や魔物から守ることを生業としている。
神官戦士は神聖魔法戦士のことであるが、それほど神聖魔法に秀でている場合は多くなく、どちらかというと初歩的な神聖魔法を使える神殿附属の兵力というべきものだ。が、中には、修行の結果戦力と神聖魔法に秀で、聖騎士にクラスアップする場合もある。このパーティの場合、正確には修道冒険神官戦士である。
司祭も、同じく修道冒険司祭という独特のクラスである。我々で云うと、修験者に感覚が近い。
当然、神官も修道冒険神官であり、修行で冒険をしつつ徳を積むクラスである。
神官戦士2人は、男女のペアだった。戦士2人の補助戦闘と、司祭や神官たちの補助魔法を担当する。
男のほうはバーレンリ。38歳。聖騎士見習格のベテラン神官戦士だった。ウルゲリア西部出身だが王都暮らしが長く王都派で、聖騎士になれる力を有しているのだが、生来の身分が低くいつまでも神官戦士のままである立場に嫌気がさし、神殿を出て冒険者になったパターン。対魔攻撃魔術を武器に付与する魔法の使い手で、リーダー・ホーランコルの信任も篤い。
女はカバレンコフン。21歳。ウルゲリア南部の穀倉地帯出身の、若き将来ある神官戦士である。神聖魔術の才能は今のところイマイチながら、大小二剣の優れた使い手だった。なんと、南部グーバル区教司祭の孫で、超エリート階級である。つまり、生まれながらにして聖騎士の卵だった。そのため、バーレンリからは複雑な眼で見られている。そしてグーバル区出身なので、バレゲル派だった。わざわざ王都派のパーティにいるのは、ホーランコルに気があるためである。
なお、バレゲル派と王都派は、反目してはいるがどちらも正統で大神官王も出しあえるため、多くは無いが同じパーティを組む場合もある。両派より異端認定されている森林派は、そうはゆかない。
司祭であるネルーゴフンは、24歳。女。代々王都聖騎士の家柄の聖職エリートで、非常に厳格な王都派だった。当然のように、バレゲル派のカバレンコフンをよく思っていない。追い出そうと必死だが、ホーランコルがカバレンコフン(の戦闘力)を買っているので、なかなかうまくゆかないでいた。また、ホーランコルは王都派とバレゲル派の友好も目指しており、その意味もあってカバレンコフンを重用していた。とうぜん、ネルーゴフン司祭はそれも大いに気に食わない。




