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第8章「うなばら」 1-4 ノラールセンテ地方伯からの通信

 「あの連中、こんなところまで来てたんでやんすか」

 「ま、そういうことさ。……おっと、噂をすれば」


 ルートヴァンが、少し開けてある木窓に目をやる。海風が冷たく、窓を全開にしていなかったが、ルートヴァンが近づいてつっかえ棒をとり木窓を開けると、見たことも無い鳥がいた。キレットの伝達魔法の鳥だ。カラスに似ているが、色が青みがかっており、頭の後ろに飾り羽もあるので、おそらく南方の名も知らぬ鳥だろう。


 「魔王様、ルートヴァン様、キレットにございます」

 鳥から、独特の声質ながらきれいな帝都訛りのヴィヒヴァルン語が聴こえた。

 「御苦労、ルートヴァンだ」


 「報告いたします。我々は今、ノラールセンテ地方伯爵領の領都、フィロガリにおります」


 ルートヴァンの片眉が、ピクリと動く。

 「フィロガリだと? ここで落ち合う手筈ではなかったのか? 説明しろ」


 「申し訳ございません。魔王様におかれましては、急ぎフィロガリに御足労頂き、ノラールセンテ地方伯と謁見願い奉ります」


 「謁見? 何を云っている? 説明も無しに、聖下に足を運ばせるのか? 貴様……聖下に帰依したというのは、その場しのぎの偽りだったのか?」


 「い、いえ、そのようなことはけっして……!!」

 「ならば、少なくとも我の納得する・・・・・・理由を云え! 簡潔にな」

 「そ、それは……」

 キレットが口ごもったとたん、


 「もういい。連れて行け……。ああ、もしもし、聴こえるかね? ヴィヒヴァルンの魔王様御一行諸君」


 やおら、鳥から中年男性の声がした。端整だが、酒灼けか潮灼けをしているかすれ・・・声……いや、この場合は、ハスキーヴォイスと云うべきか……渋いが、野太く威厳のある声だ。ウルゲリア語だが、これまで通り魔術等で言語は通じる。


 その声に、なるほど……という顔つきで、ルートヴァン、

 「さてさて、どなたですかな?」

 「そちらから名乗りたまえ。ただし、偽名ではなく、本名を、な。殿下・・


 ルートヴァンが肩をすくめ、チラリとストラを見る。ストラは腕を組んで明後日のほうを見ている……と、思いきや、フィロガリ方面を凝視している。


 「ヴィヒヴァルン王ヴァルベゲル8世が長孫、エルンストン大公ルートヴァンだ。で、そちらはどこの何様かね?」


 「私は、ウルゲリア聖王国ノラールセンテ地方伯爵兼ノラール地区教司祭、ガランタル・ノラールセンだ」


 「聖王国だろう?」

 厭味ったらしく、ルートヴァンが鼻でわらう。


 「さてさて……ヴィヒヴァルンの魔王様御一行は、西の空が血の色に染まっている理由を御存知のようだ……。その話を是非伺いたいのと……是非とも魔王様に、御願い奉りたい儀があってね……」


 「ほーう……」

 ルートヴァンに、悪い笑みが浮かぶ。


 その顔を見やって、やれやれという顔でフューヴァとプランタンタンが見合った。ペートリューは緊張して、さっそくストラの次元格納庫のウルゲリア産最高級ワイン樽より移した辛口白ワインの水筒を一本、ほぼ一気飲みしている。


 「ま、聖下に、奏上しておこう」

 「頼むよ、殿下。アンタ達の目的とも沿うはずだ」

 「……と、云うと……?」

 「魔獣だよ、魔獣」

 「魔獣?」


 「これ以上は、こんな魔法の鳥では話す時間が無いだろう。待っているよ」

 「待ちたまえ、伯爵。そういう事情なら、そっちが来るべき……」

 鳥が、霧散した。

 「クソッ、聖下に帰依する意思はないようだ」


 そう悪態をつきつつ、ルートヴァンはストラへ向き直った。胸に右手を当てて略礼をとりつつ、


 「聖下、左様な仕儀に御座りま……」

 「いいよ」


 「ではさっそく、船の手配をして参ります。フューちゃん、つきあってくれないか」


 「いいっすよ」

 2人が部屋を出る。


 ストラが冷たい秋の潮風の吹きこむ木窓越しに遠くを見やったまま(いつも通り)微動だにしないので、プランタンタンは小さくため息をつき、ベッドにもぐりこむと寝てしまった。


 ペートリューは水筒を瞬く間に飲み干しており、自分の部屋に戻って予備の水筒を呑もうかと思ったが、すぐに閃いて、


 「あ、あの、ス、ストラさん、あの、大きな部屋への入り口を開けてくれませんか……水筒に、補充を……」


 云うが、ストラが1ミリも動かずに次元窓だけ開き、酒樽が山と積まれた格納庫が見えた。

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