第8章「うなばら」 1-3 シオ
大柄な狼竜達が素早く丘の向こうに消えてしまい、それを見送った4人、今度こそ、近くの港町へ向けて歩き出した。
歩きながら、フューヴァが、真っ赤に光る西の空を振り返った。
(嫌な予感……当たっちまったんだな……)
高台の草原から小道に出て、徒歩1時間ほどで高台の下の小さな漁村に到着した。漁村のすぐ近くには、中継港湾都市のような、波止場の整備された港町があった。
(人口、7,873人、全て当該世界人類、エルフや魔族を含む、当該世界人類以外のヒト型知的生命体は、簡易探査範囲内では無し。生体外シンバルベリル反応無し)
ストラが一瞬で広域三次元探査を終え、狭い港町を見渡した。
港町ネラベルである。
「まずは、宿をとりましょう」
そう云って先導するルートヴァンだったが、町の人間は一様にジロジロと一行を睨みつけた。港町なので余所者には慣れているはずなのだが、様子が少しおかしい。誰も気にしなかったが、流石にフューヴァが小声で、
「ルーテルさん、ここもまだウルゲリアなんだろ? 御聖女がどうのこうのって、ここでもやったほうがいいのか?」
「流石だね、フューちゃん。当然やるさ。でも、東端の沿岸部は、内陸より信仰に厳しくないという情報だ。みんな僕らをジロジロ見てるのは、たぶん違う理由だよ」
ルートヴァンがそう云って、軽く白木の杖で西側の真っ赤な空を指した。
「僕らは船で来たんじゃないから、必然、西から陸路で来たことになる。みんな不安なのさ。国の中央で、何が起きたのか」
「なるほどな……」
フューヴァが目を細めて西の空を見やり、うなずいた。
「で、何か聞かれたら、正直に答えるのか? ストラさんは、たぶん何の気兼ねもなしに国は滅んだって答えるぜ」
「国が滅んだのは事実さ。滅ぼしたのはスーちゃんだって、答えなければいいだけさ」
ルートヴァンがせせら笑いながら話を切り上げ、先を行く。
(そう、うまくいくといいけどな……)
そう思いながらもフューヴァ、ストラなら何とかすると信じ切っている。
小さい町だが、港町なので船員用の宿がいくつかあり、すぐに部屋を3つ、とれた。
いったんストラの部屋に集合し、打ち合わせを行う。
「妙な風の臭いにゃ慣れやんしたが、なんだか、カラダがベタベタするでやんす」
プランタンタンが顔を撫でながら、不平を垂れた。
「潮風だからね、プランちゃん、潮だよ、それは」
ルートヴァンの説明に、不思議そうにプランタンタン、
「へえ? シオって、あのしょっぺえシオのことでやんすか?」
「海の水は、塩辛いらしいですよ」
「?」
ペートリューの説明にプランタンタン、意味が分からぬ。
「だから、川や湖の水と違って、海の水はしょっぱいんだってよ」
フューヴァの言葉に、ようやく、
「海の水が? しょっぺえ?」
「そうさ」
「あの、見渡す限りの水がでやんすか?」
「そうさ!」
(ただし、塩分濃度は約2.9%……)
ストラは内心、そう思った。
地球の海水が約3.4%なので、少し薄い。
「で、そんなにたくさんのシオを、誰が入れたんでやんす?」
「知らねえよ」
あっさりとフューヴァにそう答えられ、プランタンタンが眉を下げる。
「まあ、入れたとしたら、それこそ、神様だろうねえ。さて、潮談義はそれくらいにして……」
ルートヴァンが、話を戻す。
「ここで、僕たちは人を待つんだ」
「人? 誰をです?」
「タケマ=ミヅカ様の命令で、北海の魔王の住む絶海の孤島へ唯一行くことのできる魔獣を探していた、魔獣使い達さ」
ルートヴァンに云われ、フューヴァが小首をかしげた。
「……そんなやつ、いたっけ」
云われても、ペートリューは知らない。デイザー盗賊団のアジトで賊どもの酒を失敬し、飲んだくれていたからだ。
「キレットとネルベェーン。南部大陸人種及び部族の。ヴィヒヴァルンに、出稼ぎに来ていた」
「ああ、ヴィヒヴァルンの街道の途中で、あの火竜やらを使ってた連中でやんすか!」
ストラの声に、プランタンタンが思い出した。




